フィンランド人らしい「スペースの尊重」
──「困っていそうだから助ける」のではなく、具体的に言われるまで黙って見守るというのは、お互いの自由を尊重するフィンランド人にとっての「スペースの尊重」なのですね。
そうなんです。フィンランド人は自分の時間や空間をすごく大事にするので、相手に踏み込みすぎず、「スペースを尊重する」のが彼らにとっての思いやりです。
移住前、旅行に来た時に、フィンランド人の友人とサンタクロース村に行ったことがあるのですが、到着した途端にその友人が「僕は疲れたから、車の中で寝ているね。chikaはサンタクロース村を楽しんで」と寝始めました。
日本だったら、「せっかく一緒に旅行に行ったのに!」と驚きますよね。でも、私にとっては、一緒に同じことを楽しむだけでなく、それぞれがやりたいことをやってもいいんだ、というのがすごくラクでした。
田舎出身で、人と違うことが理解されにくい環境に育ったことや、自分の意見を主張できない性格だったことも大きいかもしれませんが、この「少し距離感のある関係性」こそ、13年通う中でいちばん好きで、いまも性に合っている“フィンランドらしさ”です。
スペインやアメリカから来た友人の中には、この距離感を少し冷たいと感じる人もいるようですが、私自身はこのスペースの取り方を、すごく心地いいと感じています。
ただ、何度も言うように、移住してきたからといってそれですべてうまくいく、というわけではありません。ここに住んでいる以上、私自身も、自分の意見や思いを自分で口に出し、守りたいものを守るためにノーも言う。それはいま、日々の暮らしの中で心がけていることです。
──「相づちの頻度」で描かれている「相づちを打たないほうがいい」という文化の違いにも驚きました。これも、「相手の話を尊重する」というフィンランド人の考え方から来ている風習なのでしょうか。
そうだと思います。フィンランドでは、相手の話を遮らずに最後まで聞くことがマナーなので、「あまり相づちを打ちすぎると逆に話しづらい」というのは、私にとっても発見でした。
だからそれを知ってからは、相手へのリスペクトの示し方のひとつとして無言で話を聞くことは、かなり意識しています。
一方で、聞いた話に対して「自分はどう思う」という意見を言うことも大事にしています。フィンランド人は子どもの頃から、自分の主張を議論し合うことに慣れています。「これを言ったら駄目かな」「自分の意見は言わないほうが揉めずにすむかな」ではなく、「自分はこう思うけど、あなたはどう?」と相手に伝え、それを批判と受け取らずに、お互いの妥協点を探す。これは一朝一夕にはできないので、いま日々訓練しているところです。
2024.09.18(水)
文=相澤洋美