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ハードな世界を生き抜くためにおしゃれとおしゃべりを続ける

──岡崎さんが『ヘルタースケルター』で描いた、整形を繰り返してゆくヒロインは、そんな社会圧に対するアンチテーゼでもありました。その一方で岡崎さんは、ハードな現実を楽しく生き抜く術として、おしゃれと女友達とのおしゃべりを繰り返し描いていました。

 今でいうエンパワーメントとシスターフッドの重要性を早い段階で描いていましたよね。小泉さんもそれは同じで、シンディ・ローパーが1983年に発表した『Girls Just Want to Have Fun』という曲に当時からシスターフッドを感じていたと発言されています。

──女性はライスステージの変化で物理的にも心理的にも関係性が分断されがちですが、最近は違いを認めた上で連帯しようという意識が強まっています。

 女性が仕事を持つようになって経済的にも精神的にも自立してきたのも、シスターフッドを継続しやすくなっている要因ですよね。私が教えている大学でも、結婚も恋愛も別にしなくても楽しいと口にする子も多くて、いろんな意味で生きやすくなってきたなと感じます。

──そんな今、この2人について考えることはどのような意味がありますか?

 恋愛や結婚をしないことも含めて、多様な生き方が認知されてきましたし、この20~30年でいろんなことが激変しましたよね。

 やっぱり今、連続テレビ小説『虎に翼』のような国民的ドラマでフェミニズム的なことがさらっと描かれる時代になったけれど、私たちは最初からここにいたわけではない。小泉さんや岡崎さんや、その他のいろんな女性の抗いがあったから今にたどり着いているのだと俯瞰してみれば、それが未来に繋がってゆくと思います。

 日本が豊かでマスメディアが力を持っていた時代と比べると、今はSNSやYouTubeという武器があって、自分の気持ちひとつで誰でも世界に何かを発信できるようになった。閉塞感を打破するのはそこかなと期待しています。

──自由に生きたいと思う人が日常の中で今すぐ実践できることがあれば、教えてください。

 『虎に翼』でヒロインがよく言う「はて?」って、すごく大事なことだと思うんです。上野千鶴子さんは「常識の関節外し」と表現していますが、世の中で当然とされていることにも、これって本当に正しいの?というスタンスで接すると自分自身がすごく楽になります。常識を疑う「はて?」の精神は大事ですね。

米澤 泉(よねざわ・いずみ)

甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授。1970年京都生まれ。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。社会で「取るに足りない」と思われることから社会の本質を掬いとることを研究の目的とする。

小泉今日子と岡崎京子

定価 1760円(税込)
幻冬舎
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2024.08.27(火)
文=井口啓子