Did you mean:我慢する

「タカンスル」と「ガマンスル」。韻を踏んでいるので、Googleさんは入力エラーかと思ったのだろう。しかし、この問いは妙に引っかかる。他者の立場を慮ることと、自分が我慢することは繋がるからである。例えば、エンパシーが水平ではなくて垂直な方向(下ではなくて上)にばかり向かうと、為政者がどのような悪政を行っても「お上にも事情があるのだから」と我慢する人が増える。これは本書にも書いたエンパシーの弊害の一つだ。

 アレロパシーという植物界における現象も人間界にスライドできる。ある人間や社会が発する何かが、別の人間や社会に影響をおよぼすことはあるからだ。その「何か」を例えば「情報」と定義すれば、植物における土壌にあたるものは媒体(インターネットなど)だ。戦争や災害の情報が世界に拡散されると、遠隔地の人々にも影響を与える。紛争地の人々にエンパシーを働かせ、どちらかの陣営に感情移入し過ぎるあまりに自らテロリストになる人々が出てくるという説は本書でも書いたし、イスラエルとハマスの武力衝突が始まったときに、中東から遠く離れた英国でユダヤ系、ムスリム系の人々へのレイシズムが高まったのも同様の現象だろう。

 ならば、アレロパシーはエンパシーの一現象と言うこともできないだろうか。などと、いつまでも考察していると、「じゃあ、エンパシーの日本語訳は『他感』でいいんですか?」としびれを切らすインタビュアーの声が聞こえてきそうだが、この本は初めから、そういうわかりやすくて簡潔な答えを出すものではなかった。

 そもそも、この両義性を持つ人間の能力について考える旅が、たかが数年で終わるわけがないからだ。そういう意味でこの本は未完である。続きを書いていくのはわたしかもしれないし、この本を読んでいるあなたかもしれない。

2024年2月23日


「文庫版あとがき」より

他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ(文春文庫 ふ 50-1)

定価 825円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

2024.08.20(火)