ワクワクを楽しめる純粋な心
右近さんはふたりで初めて踊った時、すぐに眞秀さんの「やりたい!という気持ち」を強く感じたそうです。それを裏付けるように眞秀さんは初めて毛を振った時は「興奮した」と話します。
「結局、一番共感するのはそこです。そしてやりたいという純粋な気持ちの支えとなるのが練習量なのですが、訓練を重ねていくことによってワクワク感が薄れていくことも実はあるんです。重要なのは本番でワクワクのピークを迎えられるようにペース配分を気にかけながら稽古していくことです」(右近さん)
右近さんは役の心やそれを表現するための技術だけでなく、歌舞伎俳優として当日を迎えるまでの姿勢もまた仔獅子を通して眞秀さんに伝授しようとしています。
親獅子は、器の大きさが問われる役
右近さん自身の親獅子としての稽古はこれからだそうで「格のある、さまざまな意味で器の大きさが問われる役」と話す親獅子にどう取り組んでいくのでしょうか。
「自分の演目として責任を持ち、だからといって妙に大人ぶることなく自分自身も興奮してワクワクを楽しみたいと思います。眞秀さんと一緒にのめり込んで、ふたりの連獅子をつくりあげたいですね」
稽古が一段落したかに見えたところで、おもむろに右近さんはジャンプについて補足アドバイスを始めました。それは基礎を踏まえた上でのワンステップ上の見せ方のコツ。眞秀さんがそれを教えるに至るレベルに達したという判断あってのことでしょう。取材会で「右近さんにくらいついていきたい」と話していた眞秀さん、まさにそれを実行しているようです。
ピンと張りつめた中にもどこか親密な空気が漂い、ふたりの心が通じ合っているのが実感できます。こうした時間を積み重ねた先にどんな『連獅子』が舞台に結実するのでしょうか。
「研の會」で最初に上演される『摂州合邦辻』で演じる玉手御前は、冒頭にも記した通り義理の息子に恋をする女性です。そこにはお家騒動を背景とする武士社会特有の複雑な事情が絡んでいます。玉手御前という女性についてよく語られるのが〝その恋は果たして本心だったのか〟というテーマなのですが、「どういう気持ちで演じるかはなるべく言いたくないお役です」と、右近さん。
「日常でもあの時の言葉はどういう意味だったんだろうとか、なぜああいう行動をしたんだろう?とか、後になって思うことがありますが、玉手御前はどの一面を切り取っても本当の心がある女性なのだと思います。重点を置きたいのは純粋な心。泥水の上に美しい花を咲かせてやがて散っていく、蓮の花のようなイメージで演じたいと思います」(右近さん)
立役としても女方としても躍進を続ける右近さん、その多彩な魅力がいっぱい味わえる公演となりそうです。
尾上右近自主公演 第八回「研の會」
【大阪公演】 会場:国立文楽劇場
2024年8月31日(土)昼の部11:00開演 夜の部16:00開演
2024年9月01日(日)昼の部11:00開演 夜の部16:00開演
【東京公演】 会場:浅草公会堂
2024年9月4日(水)昼の部11:00開演 夜の部16:00開演
2024年9月5日(木)昼の部11:00開演 夜の部16:00開演
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今こそ、歌舞伎にハマる!
2024.08.16(金)
文=清水まり
写真=榎本麻美(稽古場)
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