「今」食べたいパンを提供したい

 ところで、「Et Nunc」とはあまり聞きなれない言葉ですが、ラテン語で「そして今」という意味なのだとか。焼きたての美味しいパンを「今」食べる、という偉大で小さな幸せを味わってほしい。そして「今」、この瞬間の「好き」を満たしたい、などの想いが込められています。だからこそ、いつでも焼きたてが出てくるのはもちろん、ジャンルも幅広く種類豊富。一人一人の好みにもどんなライフスタイルにも気分にも、あらゆる「今」にフィットするパンに出合えるのです。

 いつでも「今」を美味しくしてくれるパンは、毎日食べたいパンとも言えます。それは日本人の体に馴染む、国産素材のおいしさを感じられるパン。その代表格といえば「パン ド ミ」です。

 さっくり軽い食感を叶えるべく、選んだ小麦粉は茨城県産「ゆめかおり」。そして酵母はルヴァン種とホップ種の自家製酵母。香ばしさが出るよう限界まで焼き上げるおかげで、クラストはサックサク! 軽くクリスピーな食感はラスクのようで、ミミがもう主役級においしいのです。

 焼かずにしっとり、ホップ種のフルーティな香りを楽しむのもいいですが、トーストすると本領発揮! まわりが香ばしく砕けて、中は綿菓子みたいにふわふわ。「食感や味のコントラストをいつも考えています」と星さん。このコントラスト、やみつきになりそうです。

 日々ファンを増やしているのが、1日平均100個が完売するという「チャバタあんばた」。チャバタに使うのは水分をキャッチする力が強くもっちり仕上がる、けれど生産量が少なく“奇跡の小麦”と呼ばれる「キタノカオリ」と、自家製酵母のルヴァン種。小麦に対し90%という多加水で仕上げることで、小麦本来のもっちり感に酵母の風味が引き立つとか。さらにたっぷり蒸気を含ませたオーブンで柔らかく長めに火を入れることで、外はカリカリ中もっちりに。

 粉の旨みが息づくチャバタに、北海道産エリモ小豆のあん、北海道根釧地区の生乳でできた発酵バターをこぼれんばかりに挟んで完成です。

 頬張ると薄めのクラストがかり、もちっ。あんの深いコクとバターの乳味が広がり、噛むほど溢れる酵母のほのかな酸味、しみじみとした粉のうまみがあとを引きます。仕上げに振った国産フルール・ド・セル(天然海塩)が優しく、全体の甘さと香りを際立てて。あと一個が止まらなくなってしまいます。

 あん好きなら、「あんクレーム」もお忘れなく。生地は2種の強力粉に旨みの強い小麦の外皮の粉を混ぜ、無発酵でパイに仕立てることで、開きかけの本のようにエッジがたったパリパリ食感に。クリスピーさとうらはらに、甘さを控えたあんとクリームがまろやかにとろけます。

2024.08.10(土)
文=chico
写真=榎本麻美