かように作品が動き回り姿を変えながら、会場全体に広がっているので、訪れた観客は我が身ごと作品内に飛び込んでいくかたちとなる。作品の一部になるというか、自分が作品と一体化してしまう感覚に陥るのだ。没入感が味わえるどころの話ではない。作品と自分の境界線まで、見失いそうだ。
自分の立ち位置まで揺らいでしまう
「エプソン チームラボボーダレス」内には、「超」がつくほど大規模な作品も多数設けられている。
「ライトスカルプチャー - Flow」シリーズはそのひとつ。放たれた光によって、巨大な光の彫刻とでも呼ぶべき存在が虚空に浮かび上がっている。その像は徐々に広がりながら、観る側のほうへずんずん押し寄せてきて、こちらの身体が丸ごと彫刻の内部に呑み込まれそうな錯覚に陥る。
どこまで広がっているのか認識できない暗闇空間のなかを、無数の光る球体が走り続けているのは《マイクロコスモス - ぷるんぷるんの光》。球体の一つひとつが、みずからうごめく生命体のように見える。
《Infinite Crystal World》は、点々と並べられた光だけで、三次元の立体物をかたちづくろうとした作品だ。作品内に身を置いているとふと、自分が立っているはずの床面が消えてなくなった感覚が襲ってくる。いきなり天地左右のない宇宙空間へ放り込まれたかのよう。元の世界に帰れるんだろうかという不安と、帰れなくなって浮遊し続けるのもいいという気分が交互にやってきて、感情が大きく乱れてしまう。
会場で、この空間を築き上げたチームラボ代表・猪子寿之氏の話を聞けた。
「歩き回ってこの世界を体感して、自分も含めた全体がひとつの作品なんだなと感じてもらえたら」
と、楽しみ方を教えてくれた。続けて、
「我々はふだん、『私』というものが独立して存在するということを当たり前のように信じていて、みずから境界をつくっているんじゃないですか? でも本当は境界なんてなくて、すべては連続していて、自分と世界は一体になれると考えてもいい。そうすると、自分自身も含めたこの世のすべてに対する肯定感や幸福感が生まれてくるんじゃないかと思うんですよ」
なるほど、ほかでは味わえないポジティブな感覚を得られる場づくり。それこそチームラボが「エプソン チームラボボーダレス」で実現したかったことなのだ。
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森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス
麻布台ヒルズ ガーデンプラザB B1
https://borderless.teamlab.art/jp/
2024.07.30(火)
文=山内 宏泰