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 韓国出身の8人組ボーイズグループ、ATEEZ(エイティーズ)の快進撃が止まらない。

 2018年の本国デビューから、歌とパフォーマンスの実力に磨きをかけ続け、23年12月にリリースした正規2集アルバム『THE WORLD EP. FIN:WILL』は、米国を代表するヒットチャート「ビルボード200」で首位を獲得。さらには英国の「オフィシャル・アルバムチャート」でも2位にランクインした。ATINY(エイティニー)と呼ばれる彼らのファンは、地球上のいたるところで増殖する一方だ。

 そして、翌24年、勢いに乗る彼らに届いたのは、カリフォルニアの砂漠で催される世界最大規模の野外音楽フェス「コーチェラ・フェスティバル」からのオファー。この4月、コーチェラで披露された彼らのステージは、耳も目も肥えたオーディエンスの度肝を抜いた。

 世界が注目する最旬の8人が、現在の心境を語る。

【前篇を読む】【ATEEZ徹底解剖】コーチェラでのステージにこめられた“想い”と演出の裏側
【中篇を読む】「ATEEZは舞台が大きければ大きいほど強くなる」コーチェラのステージを経た8人の"現在地


ATEEZの音楽性をさらに深堀

 ATEEZのサウンドには、主流のK-POPとは趣を異にするファクターが存在する。多くの韓国の楽曲は、ヒップホップの手法をベースとし、リズムパターンのループにのせてラップを連ねメロディーを紡ぐメソッドが多い中、この8人の楽曲は、そこに、さらなる展開が加わる。バラード調のヴォーカルやエモーショナルなギターソロなど、ドラマティックな展開が盛り込まれているのだ。

 それゆえ、時にミクスチャーと呼ばれる彼らの音楽性だが、そこにフィーチャーされるロックには、このジャンルでは定番のスラッシュメタルではなく、もう少し前の時代のクラシックな薫りが漂う。その結果、往年の洋楽でいえば、クイーンやサンタナのように、幅広い年代のリスナーの心の琴線に触れる作品に仕上がっているのだ。音楽性に関してはそれぞれ一家言を持つメンバーに、好きな洋楽のアーティストについて聞いた。

HONGJOONG 僕は、デヴィッド・ボウイとマイケル・ジャクソン。子どもの時から、自分が生まれる前のポップスが好きだったんです。デヴィッド・ボウイに関しては、洗練を極めたスタイリングも大いに参考にしています。

 ボウイは、『ジギー・スターダスト』(1972)、『スケアリー・モンスターズ』(80)などの名作において、架空のキャラクターに扮してストーリーを物語った。そのコンセプトメイキングは、デビュー以来、ミュージックビデオなどを通して一貫した壮大なサーガを綴るATEEZにも共通する。

HONGJOONG 僕は、14歳の頃からコンピュータにプログラミングする形でトラックを制作してきましたが、そのきっかけとなったのが、マイケル・ジャクソンの楽曲でした。「ビリー・ジーン」「スリラー」を初めて耳にした時のインパクトは忘れられません。未だに彼のナンバーは、聴くたびに新鮮なインスピレーションを与えてくれますね。

HONGJOONGは、このグループの不動のキャプテンであり、作詞・作曲のクレジットに名を連ねるサウンドの要でもある。

MINGI 僕が最近一番好きなアーティストは、ポスト・マローン。強靭な印象に惹かれます。エイサップ・ロッキーもお気に入りですね。

アメリカが誇る2人の売れっ子ラッパーを推すMINGIは、HONGJOONGとともに自らもラッパーを務める。彼の低音のラップは、ATEEZのサウンドにしっかりした重心を与えている。そして、そのトリックスター然としたステージ上での振る舞いは、雰囲気をあっという間に塗り替えるジョーカーとしての役割を果たしているといえるだろう。作詞・作曲に参加している事実も特筆したい。

SEONGHWA 僕はハリー・スタイルズ、それからテイラー・スウィフトです。

 王道を歩むヒットメーカーの名を挙げたSEONGHWAは、ATEEZの中で最年長。鋭さを帯びたクールな美貌が際立つが、実は、その包容力や家事の才能から、メンバーには「お母さん」と呼ばれているのだとか。

YUNHO ザ・スクリプトを、子どもの頃からよく聴いていましたね。

ザ・スクリプトは、アイルランドのダブリン出身の3ピースバンド。そのメロディアスなサウンドが、世界的な支持を集めている。このバンドを愛するYUNHOは、185センチの長身を生かしてしなやかに舞い踊り、舞台を華やかに彩る存在だ。日本語に堪能で、この取材においても、通訳を介さず質問に答えてくれた。

YEOSANG アラン・ウォーカーが好きですね。幼い頃はバラードやポップソングを聴くことが多かったんですが、彼の「フェイデッド」を耳にして以来、EDMの魅力に目覚めました。それからは、DJやトラックメーカーが作るナンバーを好むようになりました。

 アラン・ウォーカーは、数々の大規模フェスを沸かせるノルウェー出身のプロデューサー。もちろん、コーチェラへの出演経験も持つ。なお、YEOSANGは、ドーベルマンとして認められたいが、ファンの間ではマルチーズと呼ばれている。結構おっちょこちょいなところがある愛されキャラだというから微笑ましい。

SAN いろいろと好きなアーティストはいますが、最近では何より、コーチェラでライブを観たドージャ・キャットが素晴らしかったです。楽しいステージでした。

 ドージャ・キャットは、今年のコーチェラ最終日のメインステージでヘッドライナーを務め、そのオーラで場を支配した女性シンガー。同年のコーチェラにおけるSANは、厚い胸板を強調したマスキュリンなスタイリングで話題となった。

SAN たくさん運動して鍛えて、男前に見えるよう準備したんです(笑)。

 ワイルドなパフォーマンスには定評のあるATEEZの中でも、オリジナリティにあふれたSANの一挙手一投足には、観る者の目を奪う魔力がある。

WOOYOUNG 僕は、ショーン・メンデスに憧れます。声が美しいし、それにカッコいい。

 ショーン・メンデスは、アコースティックかつオーガニックなサウンドを届けてきたカナダ出身のシンガーソングライター。華麗なダンスで卓越したパフォーマンスを披露するWOOYOUNGは、ATEEZのムードメーカーとしても、メンバーやファンから愛されている。

JONGHO 僕は、ブルーノ・マーズがとても好きです。ステージの上で醸し出す彼の余裕は見習いたい。言うまでもなく、ヴォーカルのスキルも抜群。あやかりたい部分がいっぱいあるシンガーですね。

 アンダーソン・パークと組んだシルク・ソニックでの活動も記憶に新しい大人気シンガーソングライターをリスペクトしているのは、ATEEZ最年少のJONGHO。6オクターブの音域を自由自在に歌いこなす技巧派のヴォーカリストだ。ここまで出るのかというハイトーンヴォイスは、K-POPの最強兵器と称したい。初めてATEEZを目にしたオーディエンスが多いコーチェラでも、その歌声は驚きとともに受け止められていた。

JONGHO 評判がよかったようで、本当に光栄です。ありがとうございます。

2024.06.19(水)
文=下井草 秀
撮影=土屋文護