――連載ネームが通る前の企画段階で、担当の編集者さんとはどのような話をしましたか。

 担当から「おもしろいけど売れる作品ではないかもしれない」と言われ、「俺もそう思います」と返したのを覚えています(笑)。その当時、「怪獣」や「特撮」といった要素は少年マンガのジャンルとしては成功例がほとんどなく、まだ誰も開拓できていない分野でした。

 しかもイケメンだらけでも美少女だらけでもなく、30代のおじさんが主人公だったので、とても売れそうなマンガには思えなかったワケです(笑)。「それでもいいから描きたい」と担当に伝えたところ、「わかった。できるだけブラッシュアップして会議に回そう!」と力になってくれました。

主人公の年齢が32歳の理由

――本作の主人公・日比野カフカは、少年マンガの主人公としては年齢が32歳と高めです。その年齢に設定した意図をお聞かせください。

 自身を投影した部分は大きいです。当時、僕も自分のマンガで食えず、夢に近いけど遠い場所で生活費を稼いでいました。漫画家の友人が誌面で活躍しているのを見るたびに「なぜ俺はこちら側にいるんだろう」と複雑な気持ちになっていました。そんな僕の中から自然と日比野カフカが生まれてきたんだと思います。

――第1話掲載直後から、大評判となりました。

 担当や友人から聞いて反響を知りました。前作の経験から第1話でどれだけの読者をつかめるかが大事なのはわかっていたので、そのための工夫はふんだんに練り込んではいましたが、先にもお話ししたとおり僕も担当も「売れるタイプのマンガじゃないかも」という気持ちでリリースしていたので、あそこまで大きな反響をもらえたのは驚きでした。

 

切腹してもいいからやってほしい」憧れのスタジオがアニメ化してくれると聞いて…

――アニメ化はどのタイミングで聞きましたか。

 かなり早い段階だったと思います。連載開始から1年くらいでしょうか。僕自身、それまでうまくいかない期間が長かったので、実感が湧くまで時間がかかりました。

――アニメの座組を聞いたときの感想をお聞かせください。

 アニメが好きな仲間と「もしI・Gやカラーが自分のマンガをアニメ化してくれるなら、第1話の試写を観たあとに切腹するという条件でも受ける!!」みたいな冗談を言ったことがあるんですよ(笑)。それくらい憧れのスタジオだったので、本当にうれしかったです。そういった気持ちがマンガに丸出しになっているからこそ、東宝さんがこういう座組を組んでくださったのかもしれませんね。

〈怪獣8号〉福西勝也は「ブースで聴いて涙が出ました」と…瀬戸麻沙美や河西健吾が明かす、「収録現場の裏側」と「難しかった役作り」〉へ続く

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2024.06.11(火)
文=加山竜司