いじめを受けた次の日

 母は私の話を聞いたその足で、私の担任の先生、いじめた中心人物に直接会いに行ったそうです。そして夜帰ってきて、「明日、学校にいきなさい」と私に言ったんです。「絶対に守ってあげるから、行きなさい。明日は何も起こらないから」ものすごくいやだったけれども、その言葉を信じて、翌日、登校しました。そしたら、本当に何も起こらなかった。

 私が何かされたら、命がけで守るからっていうことだったんだと思います。私はそのとき、母は私のことをおおげさでなく、命がけで守ろうとしているんだな、と感じた。親としてっていうんじゃなくて、人として本気で言ってるんだなって分かったから、その言葉を信じられたから、学校へ行けたんです。でなければ、行かなかったと思う。

 先輩グループのいじめのターゲットにされたっていう情報は学校中を一気にかけ巡るんですね。廊下で、クラスの違う全然知らない同級生に、「中江さんが先輩に生意気を言ったって噂されているから気を付けた方がいいよ」と言われました。先輩とはしゃべったこともないのに。もう学校の人全員「敵」みたいな感じですよね(笑)。あと、私は「先輩後輩の関係」がいやだったからクラブに入らなかったんだけど、クラブに入っている子たちにとっては、先輩から睨まれた私と付き合えないんですよ、残念ながら。当時仲良くしていた運動部の同級生たちに迷惑をかけるからもう付き合えないなと思って、そのことも学校にはもう行けないと思いつめた理由でした。

 そんなわけで、翌日の登校はものすごくいやだったし怖かったけど、行ったら、あっけなく一日が過ぎていきました。なにごともなく無事に帰宅できて、「あれ? 昨日のことは一体何やったん?」という感じですよ。

 朝、教室に入ったら、最初ちょっと微妙な空気はあったけど、1限目2限目と時が過ぎていくとしゃべってもいいかなという雰囲気になって、昨日わたしに苦言を呈した子たちも、何も言ってきませんでした。そして、そのまま何事もなかったかのように学校から帰ってきて、翌日からまた学校へ行って……おかげで私は不登校にならずに済んだんです。

2024.06.14(金)
文=「文春文庫」編集部