その後、恒大集団は資産の一部を売却し、許家印が個人で所有する不動産や自家用ジェットも売却された。その売却代金を以て負債の返済に引き当てたが、焼け石に水だった。現在、許家印の身柄は警察によって拘束されている。

 デフォルトに陥ったのは恒大集団だけではない。2023年10月、業界最大手の碧桂園(カントリーガーデン)が、1500万ドルのオフショア債の利払いを延滞したことが判明した。同社は同年12月、同じ不動産大手デベロッパー大連万達集団(ワンダ・グループ)の系列企業の株を30億7000万元(約620億円)で売却したが、資金繰りが悪化したからだとみられる。碧桂園は恒大集団とは違い、副業にほとんど手を出していない。それでもデフォルトに陥ったというのは、中国の不動産業界全体が地盤沈下していることを意味している。

 中国は14億人の人口を有し、土地資源が極端に不足している。需要と供給を考えれば、不動産神話が崩れることは絶対にないと信じられてきた。しかし、現実問題として、主要大都市の不動産価格は大きく下落してきている。開発途上の不動産プロジェクトがストップし、ゴーストタウンと化す案件が増えている。さらに2024年1月、不動産案件に投資するシャドーバンキング大手投資会社・中植企業集団が破産を申請した。同社の資産総額はピーク時には1400億ドル(約20兆2600億円)に達していたが、破産を申請したときに受けた監査によれば、負債総額が4600億元(約9兆3100億円)なのに対して、資産は2000億元だったとされている。

 これらの現象を見れば、中国の不動産バブルは明らかに崩壊したと言っていいだろう。

 崩壊のきっかけは2つあった。1つは習主席が「家は住むためのものであり、投機の対象ではない」と呼び掛けたことだった。これを受けて、人民銀行は住宅ローンに対する規制を強化した。もう1つはコロナ禍だ。3年間続いたゼロコロナ政策のために、たくさんの中小零細企業が倒産し、若者の失業率は大きく上昇した。その結果、一般家計は生活防衛に走って消費を控えるようになり、不動産需要が落ち込むこととなった。一方、富裕層と中所得層は海外に移住しようと手持ちの不動産物件を売りに出し、不動産市場は供給過剰になったのだ。

2024.05.21(火)