犬ぞりの強烈な匂いにノックダウン

 オーロラを見損ねた翌日、雪上の犬ぞりを体験するべく、ふたたび湖へと向かった。迎えてくれたのは、元気なハスキー犬たち。盛んに吼えているのは、「自分に引かせてくれ!」と懇願しているのだという。

そりを前に興奮しているハスキー犬たち。

 このときに乗った木製のそりは、大人が3人乗れるタイプのもの。マッシャーと呼ばれる犬使いがかけ声とともに手綱を引くと、そりに繋がれた数頭のハスキー犬がいっせいに走り出した。林の中の真っ白な道を、犬たちは颯爽と駆けてゆく。ときにはでこぼことした道や木立ちに挟まれた急カーブもあるが、彼らのドライビングテクニックは絶妙で、こちらがハラハラするのをよそに、軽やかに通り抜ける。

静かな森の中、雪上をそりが滑る音と犬たちの息遣いだけが響く。

 静寂の森の中では、犬の息遣いとそりが滑る音のほかには何も聞こえない。かつて、ここに暮らした先住民にとって、犬ぞりは欠かせない移動手段で、人間と犬はきっと助け合って共存していたのだろう……と思いを巡らしていたそのとき。猛烈なガス臭があたりに漂い始めた。聞けば、犬たちは走りながら、喉の渇きを潤すために雪を食べ、用も足すように訓練されているのだという。当然、オナラは当たり前。前日は厳寒の氷上で眠りながら生きながらえた私も、この強烈な匂いに何度も気を失いそうになった。

このそりに乗って、雪上を巡る。見た目より乗り心地は快適。

 結局、イエロータウンで名物のオーロラを観ることはなかった。だが、深い雪の中で食べた温かなトナカイのミートボールや、厳寒から守ってくれた防寒服の温もり、雪上を滑るそりの音、そして犬ぞりの強烈な匂いなど、五感で感じた北限の記憶は、なによりも忘れ難い旅の思い出となっている。

芹澤和美 (せりざわ かずみ)
アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト www.serizawa.cn

Column

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2014.02.25(火)
text & photographs:Kazumi Serizawa