4歳の頃におとずれた「危機」
確か私が3、4歳の頃。当時の猫沢家には“台所のおばちゃん”と呼ばれていた通いのお手伝いさんがいて、昼と夜の食事をこしらえてくれていた。おばちゃんは、夕食時、かならずコップ1杯の冷酒を飲むことを楽しみにしていた。
その日も、おばちゃんの夕餉の席にはグラスに入った酒が置かれていたのだが、私は透明な酒を水と勘違いして、うっかりそれを飲んでしまった。しかも一気に。
「アッ、エミが日本酒飲んじゃったよ!」
と、周りの大人たちは焦ったが、この時の私の感想は、
「美味い」
であった。思えばこの時から、猫沢家の酒好き体質の片鱗が私にもあったと言っていい。
それから数日経ったある夜、私は先日のコップ酒一気飲みを思い出し、「あの美味しい水、また飲みたいな」と、とてもピュアな気持ちで台所へ向かった。流し台の下に、日本酒の一升瓶が置いてあることも、もちろん知っていた上で。そして、目的のブツに辿り着くと、やおら栓を抜いてグビグビと直飲みした。
「ぷはあ~。やっぱ、美味い!」
そして、“美味しい水”を飲んだ後は、なぜか気持ちよく眠れるということも発見した。それからというもの幼少の私には如何ともし難い、猫沢家での騒動がひどかった日の夜などに、こっそり飲酒を繰り返した。記憶では数ヶ月間、といったところだろうか。
しかし、ある日突然、私は酒を飲むのをやめた。これもまた、3、4歳の女児が考えるにはあまりにませた悟りだと思うが、「これ以上、“美味しい水”を飲み続けたらダメになる!」とはっきり思ったのだ。かくして私は、超早期飲酒と軽いアルコール依存を経て、超早期離脱を終えた。
猫沢家の一族
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集英社
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2024.03.29(金)
著者=猫沢エミ