●「花燃ゆ」で演じた、ろう者役が大きな転機に

――その後、森永さんにとって、転機となった作品や出来事を教えてください。

 いちばんは、大河ドラマの「花燃ゆ」(15年)です。そのとき、吉田松陰さんの弟さん(杉敏三郎)を演じさせてもらったんですが、ろう者の設定だったんです。セリフが一切なく、手話も一般的に広まっていない時代のお話なので、「ホームサイン」と言われる家族しか分からない手段や筆談でコミュニケーションを取るしかなかったんです。

 言葉に頼らず表現する難しさもありましたが、それが後々の芝居のアプローチに役立ったと思うので、とても勉強になった作品でした。

――その後、16年と18年に公開された人気コミックの実写版『ちはやふる』では“机くん”こと駒野勉役を演じ、さらに注目を浴びました。

 原作では割と隠れた人気キャラだったので、どこまで原作を踏襲した上で、どう新しくキャラクターを作るかを、小泉徳宏監督といろいろ話し合いました。ただ、先に「アニメ版」が放送されていたこともあって、声優さんのテンションを参考にさせていただいて、大事なシーンでは、そこにちょっとピッチを合わせるというか、寄せていく方法をとりました。おかげさまで、原作ファンの方にも満足していただけたようで良かったです。

――その後、『カノジョは嘘を愛しすぎてる』(18年)、『小さな恋のうた』(19年)といった青春映画では、ドラムの腕前を披露しました。

 母親がピアノ講師だったとはいえ、ピアノに触れることができるという程度で、特に楽器ができるわけではなかったんです。ドラムに関しては、本当に作品のお話がなければ触ってなかったと思います。ピアノを打楽器の括りとして見た場合、ドラムと同じ打楽器なので、似ている部分もありますし、生かせる部分はたくさんあったと思います。

 ただ、本当に四肢バラバラに動かす脳内の伝達なので、かなり難しかったですね。あと、リズム隊として、僕が狂うとバンドの評価に関わってくるという話も聞いていたので、そこは注意して取り組みました。

2023.12.08(金)
文=くれい響
撮影=三宅史郎