さらに、メタボリック症候群も寿命と同様に7時間を底にJカーブを描いており、うつ病と睡眠の関係も明らかになっている。それだけ睡眠と加齢関連疾患との関係には根深いものがあるのだ。
「逆に、個々人の睡眠の詳しい様態は、脳の老化を表す一つのマーカーになりえます」
つまり、その人の睡眠の質を調べることによって、脳の老化の具合を判定できるということになる。
「年をとって寝られなくなった」「早く目が覚めるようになった」というお年寄りは多いが、確かに高齢になると睡眠時間は少しずつ減少する。さらに就寝時間も起床時刻も早くなるので、睡眠の中央時刻(就寝と起床の真ん中の時刻)が前倒しになり、若年者に比べて深睡眠とレム睡眠が減少していく。
「高齢者は中途覚醒が多く、連続した睡眠が維持できなくなる。良い睡眠は脳の加齢や身体の加齢関連疾患を予防すると考えられます」
だからといって、睡眠薬を使ってでも眠ればいいかといえば、必ずしもそうではないと柳沢機構長は言う。
「従来の睡眠薬を何年も続けて飲んでいると認知症のリスクが増えるという報告もあるし、薬によっては耐性や依存性が出るものもあるため注意が必要です」
睡眠負債という概念
柳沢機構長が発見した「オレキシン」の拮抗薬が不眠症治療薬として発売されている。オレキシン拮抗薬は髄液中のアミロイドβやリン酸化タウタンパク質を減らすという最新の研究もある。
「一晩だけの急性効果のデータであるため、認知症の予防になるかどうかはまだ分かりません。しかしこれは期待の持てる報告です。オレキシン受容体拮抗薬には依存性がないため、眠れるようになったら卒業できるという利点もあります」
付け加えると、マウスレベルの実験では、レム睡眠を人工的に増やしたマウスは、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβが減ることも分かった。さらにレム睡眠増加マウスはストレス耐性が向上し、アルツハイマー病モデルマウスの実験でも、レム睡眠量が少ない個体ほど学習成績が悪い。
2023.11.25(土)
文=河合香織