「古いものを壊すことは、過去の記憶を捨てることと同じじゃないのか! 人が生きて死んでいった記憶を、ないがしろにするということじゃないのか! 新しいものばかりに飛びついて、歴史をかえりみない君たちに未来などあるか!」
このセリフは宮崎駿の脚本にはなく、宮崎吾朗監督が絵コンテの段階で付け加えたものだ。海と俊は、自分たちの意志で、過去の遺産、戦争の記憶、父親たちの思いや考えを受け継ぎ、継承していくことを決意した。きっと宮崎吾朗監督も父・宮崎駿のいろいろなものを受け継ぐことを決意したのだろう。
![宮崎吾朗は監督として「父子」の物語に臨んだ ©文藝春秋](https://crea.ismcdn.jp/mwimgs/5/d/1280wm/img_5d897954f51c898dc2f84be9a71794be1365152.jpg)
徳間康快はしばしば宮崎駿に「重い荷物をせおって、坂道をのぼるんだ」と話していたという(『折り返し点1997~2008』岩波書店)。『コクリコ坂から』は、“過去”という重い荷物を背負って坂道を登ろうとしている若者たちの物語と読むこともできるのではないか。
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2023.07.28(金)
文=大山 くまお