競争率が三倍に達することもある入試をくぐり抜けてきた地方の秀才たちが暮らすのが、高校の敷地内に建つ男子寮、蒼空寮だ。二棟ある三階建の居室棟に合計三十一の部屋があり、理数科生徒のおよそ三分の一にあたる九十三名の生徒たちが集団生活を送っている。

 マモルたちは理科棟の屋上にあるコンピューター制御の天体望遠鏡を通学路に向けて、新生活への期待に頰を上気させた新入生たちの姿を見下ろしていたのだ。

 先頭を歩いてきた生徒と、その横でしきりに何かを話しかけている母親が、校門を通り過ぎた。坂を登り始めたばかりの生徒まで数えると、七組はいるだろうか。

 ちょうど絵になる頃合いだ。

「望遠鏡、動かしていい?」

 マモルは、テーブルの向かい側で大きなノートPCを操作している道直規に声をかけた。

「いま?」

 ナオキは、不満そうに頰を膨らませる。

「ちょうどいい感じなんだ。先輩から新入生の写真を撮っとくよう頼まれてるんだ」

 ナオキは、食堂の入り口に近いテーブルで、ノートPCを覗き込んだり、VRゴーグルをかけて何やら作業に没入している三年生グループに顎をしゃくった。

「あっちで飛ばしてるドローン借りてきなよ」

「じゃあ、お前が兄貴に頼んでくれる?」

「兄貴いるの――あ、いた」

 ナオキが目を丸くする。グループの真ん中でVRゴーグルをかけて両手を忙しなく動かしているのは303号室の道一先輩だった。どうやら、複数のドローンをまとめて操っているらしい。しばらく様子を窺っていたナオキがため息をつく。

「……無理か。VR甲子園の制作、ヤバいぐらい遅れてるもんな」

「だろう? 望遠鏡、借りていい?」

 三年生たちは、再来週の土曜に県大会が行われる「VR甲子園」の準備に没頭しているのだった。最大五分間の3Dプレゼンテーションを競い合うVR甲子園で、蒼空寮は全国大会のベスト8入りを果たしたこともある。

 今年の三年生たちは、ドローン撮影した映像を使って実写さながらのVR南郷高校を披露する予定だった。全ての教室を歩き回れるオープンワールド型のプレゼンテーションは野心的だが、その準備がかなり遅れている。

2023.07.20(木)