2003年にアメリカで誕生したアウトドア・フットウェアブランドの〈KEEN〉が発起人となり「Us 4 IRIOMOTE」というプロジェクトをスタート。『エシカルな旅』を提唱している。
その始まりは、西表島を撮影のために訪れたKEEN JAPANの代表(当時)の「素晴らしい自然と文化をたたえたこの島を、次世代にも継承していくために“ツーリストの立場からできることはないだろうか」いう熱い思いだった。
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西表島の人々の暮らしを静かに追いかける映画『生生流転』
その「Us4 4 IRIOMOTE」プロジェクトの一環として製作された映画『生生流転』は、生物多様性に満ちた圧倒的な「自然」を内包する西表島の姿と、歴史を紡ぐ島の人々の生き方が体感できる。映画では、先人たちの教えを守って島と共に生きてきた人々の暮らしを静かに追いかける。
「2021年の世界自然遺産登録を機に、ますます増えていくであろうツーリストに向けた、啓蒙の手助けにもなっています。プロジェクトでは、いつまでも美しい島であり続けることを願い、“思いやりを持った旅をしよう”と旅行者に呼び掛けています。なぜそのような取り組みが必要なのか、西表島の素晴らしさを映画を通じて少しでも感じてもらえれば。
西表島では、自然と暮らしと文化が、今もしっかりと繋がっています。豊かな自然環境があり、そこに寄り添うような暮らしの中から文化が生まれる。それが、西表で暮らす人の生き方だと思います。
感動を与えてくれる西表島の素晴らしさを、旅行者にどのようにして伝えていけばいいのか…。まずは、西表島にいらした方には限られた時間の中で、最大限、西表島を多角的に感じて、自然や文化について興味を持っていただきたいです。
カヌーに乗って見えるマングローブのある景色。そして、そのマングローブを使って染め物をするという昔ながらの文化を体験していただいたり。さまざまな自然環境のつながりの中で多様な生物が生活していて、水中に潜ればまた違う世界も広がっている。映画のキャッチコピーにもなっていますが、『すべてのことに意味があり、すべてのものはつながっている』。そのつながりの中に実際に身を置いてみて、五感すべてで感じていただけたら嬉しいです。
『人間は自然を壊す存在』という考えではなく、どうしたら自然に寄り添えるんだろう、人が悪にならない、逆に人間がいることで環境が良く保たれるような生活や旅というものを、私も日々学び、考えながら、それを広めていけたらと思っています」(Us4 IRIOMOTE事務局の松島由布子さん)
自然のリズムに合わせ循環型の暮らしを実践する
映画「生生流転」にも出演されている染織家の石垣昭子さんは、人間国宝・志村ふくみさんに師事し、途絶えていた島の染織文化を復興するため西表島で「紅露工房」を立ち上げ、40年以上創作活動を続けています。
しなやかな布を織るための糸も、鮮やかな色を出す島藍や紅露、福木といった染料も、工房の裏山や畑から。「何も特別なことではありません。ここには今では森のように多くの植物が育っていますが、工房を構えたときには一帯が竹林でした。竹を伐採し木を植えて、稲作をして自分たちが暮らすために必要なものを少しずつ取り入れていきました。衣食住に関わるものすべて、森からいただき、畑でも栽培します」(石垣昭子さん)。
2023.07.16(日)
文=天野真由美
写真=佐藤 亘