2003年にアメリカで誕生したアウトドア・フットウェアブランドの〈KEEN〉。『世界を少しでもポジティブに変えたい』という理念のもと、環境になるべく負荷をかけない商品作り、環境保護、子ども支援、災害支援、ジェンダー平等などの取り組みなどを積極的に行っていることでも知られています。

 こうした活動は「KEEN EFECT(キーンエフェクト)」と呼ばれ、その影響が世界中で広がっています。2019年に沖縄県の西表島の自然保護を目的に「Us 4 IRIOMOTE(アス・フォー・イリオモテ)」プロジェクトを立ち上げたのも、そうした想いから。

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 素晴らしい大自然が広がる西表島は、2021年7月にユネスコ世界遺産(世界自然遺産)に登録されました。島の大部分が亜熱帯の森に覆われ、森には川が縦横無尽に流れ、その川はマングローブ林や低湿地帯、水田などを巡り、色鮮やかな熱帯魚が暮らすサンゴ礁の海へと注がれます。

 イリオモテヤマネコやカンムリワシ、ヤエヤマセマルハコガメなど、絶滅が危惧される固有種を含む多種多様な動植物が生息し、夜にはこぼれ落ちそうな星空が広がる西表島。

 しかし、世界自然遺産として注目を集めるほどに、オーバーツーリズムによる自然環境への影響が懸念され、そのほかにも野生動物のロードキル、海岸線に押し寄せる漂着ごみなど、さまざまな課題に直面しています。

漂着ごみや野生動物のロードキル 西表島が直面する課題とは

 今起きている深刻な課題の一つは、国内はもちろんアジア圏からも流れてくる大量の漂着ごみ。その90%以上がプラスティック製で、自然に還るには何百年という途方もない月日がかかるといわれています。台風シーズンや北風が吹く冬には大量のごみが海岸線やマングローブ林の奥にまで押し寄せている場所がいくつも存在します。

 また、漂着ごみと並んで大きな課題となっているのが、西表島特有の動植物たちの絶滅の危機。西表島にしか存在しない絶滅危惧種、イリオモテヤマネコは推定で100頭あまりしかいないといわれていますが、ヤマネコの生活圏の中を幹線道路が走っているために交通事故が絶えません。

 西表島内の車両の走行速度は40キロメートル以下(集落の中などは30キロ以下)に規制されています。自治体では制限速度を守れるように呼び掛けを行い、イリオモテヤマネコをはじめとする野生動物たちが飛び出してきても事故を防げるように注意喚起しています。

 西表島で暮らすエシカルツアーガイド、オハナアウトフィッターズの國見祐史さんに、実際にここで暮らしていて感じる問題点を伺ってみました。

 「もともと、観光インフラや受け入れ側のキャパシティが十分ではない島なので、ツーリストが増えすぎてしまうと対応しきれないこともあります。世界遺産に登録されたことで今以上に旅行者が増えたとき、その変化に私たちはどう対応したらいいのか手探りの状態です。

 美しい自然と同等に、先人たちが島を守ってきた文化を守っていきたいし、失うことは阻止したい。だからといって観光客に来て欲しくないということではありません。もちろんお客さんが増えることで環境の負荷はありますが、西表島に来て遊んで、知っていただくことで環境を大切にしようという気持ちが芽生えてくださったら嬉しいです」

 美しい自然や文化は、一度失ってしまったら元には戻らない。島民よりも多くの観光客が足を踏み入れている島への旅で、ツーリストの一人一人の意識が変わることで島の未来により良い変化をもたらすことができるのかもしれません。

2023.07.16(日)
文=天野真由美
写真=佐藤 亘