西表島では、山・川・海・人、すべてがつながっている

 西表島では、山・川・海・人、すべてがつながっていて、循環する上でどれも欠かせない存在。慎ましやかながらも豊かな生活を送る石垣さんは、そんなシンプルなことを教えてくれました。

 干潟に植えられたマングローブ林は海に布をさらす時に流れていかないように、40年前から長い時間をかけて石垣さんご夫妻で育てたもの。

 「このマングローブ(ヒルギ)の道が工房にとって一番の作品ね。そして、このヒルギで染めた布は独特な美しい赤茶色に染まります。実は、西表島のほぼ全域が国立公園に指定されているので、染料で使うヒルギ(マングローブの中の一種)を伐採することは禁止されているのですが、『西表の文化として残せるのであれば』ということで国から特別に許可を得てヒルギを植え、必要な分だけ伐採しています」(石垣昭子さん)

 紅露工房で作られる布は、芭蕉、苧麻などの植物から糸を作り、島藍やヒルギなどの植物染料によって色を染めています。「西表島は、天然素材にとても恵まれている場所だと思います。すべて自然から頂戴している。人間が中心ではなく、自然の状況に自分達が合わせる。島ではそういう暮らしが昔からあって、当たり前のこと」と石垣さん。

 紅露工房の染織にとって、水もまた大切な要素。藍で染められた生地は、灰汁を洗い流すためにシークヮーサーなどの酸性のものを生地に揉み込み、その後、海水と川の真水が入り混じる汽水域で海ざらしと呼ばれる作業をする。

「海でさらすことで酸とアルカリが中和して、余計なものが落ちて生地がしなやかに。発色を良くするとか色を定着するためにも、海水に含まれるミネラルがとてもいい。昔の人はミネラルが色にいいなんて化学的なことは知らないはずなのに、昔からこんな風に海ざらしがされていました。これこそ先人の知恵ですよね。

 お米を作って、お祈りをして、神様に感謝する。それが500年もずっと続くこの島の文化。生きていくものに必要なものは自然から必要な分だけいただく。島の自然はもちろん、伝統的な文化も守るべきものだと私は思っています」という石垣さん。

 人間も島の文化も、島の生態系の一部という考えのもと、恵みある環境の持続性を高めつつ、希望ある未来へと命と文化を育んでいくその姿は、西表島だけでなく、世の中の希望ある未来を持続するための大きなヒントに。

 石垣さんが出演している映画「Us 4 IRIOMOTE The Movie 生生流転」は、「まずは西表島を知ろう」という想いを形にしたもの。これから西表島に行く人、また過去に西表島に行ったことがある人にもぜひみていただきたい作品です。

2023.07.16(日)
文=天野真由美
写真=佐藤 亘