子どもを軸にしたフランスの子育て支援

 

 産むという選択をした場合でも、その先で「自己責任」と放置されない仕組みと支援があります。望んで子どもを得たとしても、子育ては大変であり続けると、広く認められているからです。

 その支援は、子どもを軸につくられているのが特徴です。子は親を選べず、どんな事情の下、どんな家庭にも生まれてきます。ですが成長したのち、社会を支える人材になる可能性は、どの子も同じ。「子どもが健全に育つこと」の受益者は社会全体で、だから国がすべての子の育ちを支える、との考え方が浸透しています。

 その最たる例は、3歳から義務教育が始まる教育制度でしょう。フランスでは幼稚園から大学まで公立校が主流。高校までは授業料無償で、大学は年数万円の登録料で通えます。学童保育も公営で、望者は全入です。どの子でも通える公立校や学童保育に公的資金をかけて整えることで、結果的に、すべての世帯の教育費負担が軽減されているのです。

市民と国がともにつくってきた社会

 女性の人生の選択が支援され、生まれてきた子は社会に守られて育つ。それらの制度が、先進国の中でも高いフランスの出生率を支えていると言われています。

 ですがそのフランスも90年代には、出生数の低下に悩んだ時期がありました。当時は女性の仕事と家庭の両立が現在より困難で、生活のために子を諦め、仕事を選ばざるを得なかった。そこで国は女性たちの声を聴き、保育制度や子育て世帯の経済支援、男性の育児参加推進策を角的に改善。女性たちが産む・育てる選択をしやすい社会を整えたのです。性と生殖に関する医療支援も同じように、女性たちの上げた声を国が聴き、今の制度に改善してきました。

 少子高齢化にあえぎ、現政権が「異次元の少子化対策」を掲げる日本にとって、フランスには見るべき点が多いと感じます。産んでも産まなくても大丈夫と思える社会でこそ、人は自ら、親になる選択に向き合えるのではないでしょうか。

 読者のみなさんはこれからの日本で、どんな社会に生きたいと思いますか。願う形があるならぜひそれを声にして、制度を作る人々に届くよう、響かせてほしい。一人一人の声が、社会を作る大切な原動力になります。産む人も、産まない人も、同じ時代に共生する者同士として。

髙崎順子(たかさき・じゅんこ)さん

1974年生まれ。教育系出版社での編集職を経て渡仏、フランスでライターに。著書に『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮社)、『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)など。

2023.06.16(金)
Text=Junko Takasaki
Photographs=Shiro Muramatsu

CREA 2023年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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