40歳の若さで急逝

 2006年5月には42thシングル「ハートに火をつけて」をリリースするが、残念ながらこれが生前に彼女が発表した最後のシングルとなる。同曲のMVを撮影した日の深夜、彼女は子宮頸がんのため入院。闘病中も歌詞を書き続けていたが、翌2007年5月27日、入院先の病院内での不慮の事故により、40歳の若さで急逝する。

 あれからまもなく16年が経とうとしている。この間にも災害やパンデミックが起こるたび、坂井の歌う「負けないで」が人々を勇気づけてきた。「揺れる想い」もまた、2019年に再びポカリスエットのCMで、母娘に扮した吉田羊と鈴木梨央によるカバーという形で使われるなど、ZARDのもうひとつの代表曲という地位に揺るぎはない。

 ZARDのMVは、あらかじめテーマを設けたりはせず、坂井の自然な姿を長時間撮ったうえ、そこからベストシーンを選び、合間を海や青空の映像でつなぎながら構成された。撮影現場でスタッフは作品性を一切意識しなかったが、そのなかで唯一共有していたのが「坂井さんのカラーは青」ということであったという(『永遠』)。ポカリスエットの色から「青」を「揺れる想い」の歌詞に入れた坂井だが、彼女自身のイメージカラーが青だったのだ。そのせいか、青く澄んだ夏空のもとではいまなお、坂井の歌声がより私たちの心に染みわたる。

2023.05.31(水)
文=近藤 正高