長戸はすぐに彼女に連絡をとると、ZARDというプロジェクトをつくって歌わせると決める。こうして1991年2月、坂井はZARDのボーカルとしてドラマ『結婚の理想と現実』の主題歌となった「Good-bye My Loneliness」でデビューを果たした。

 坂井は先のオーディションで何をやりたいかと訊かれ、ロックをやりたいと答えていた。長戸はこれを受け、紅一点の女性ボーカルによるハードロックバンドを構想する。

バンド名に込められた意味

 ZARDというバンド名は、もともと長戸がベンツ車のランプに書かれた「HAZARD」の文字から思いついて温めていたものだった。さらに「ZARD」とつく言葉には、Hazard(危険)のほかにもWizard(魔法使い)やBlizzard(吹雪)など、どちらかというと敬遠されがちなものが多いと気づき、《ロックの持つ退廃的かつ反体制的なイメージともリンクすると思って、これを可愛い女の子の名前にしたら面白いし、ウケるのではないかと考え》、命名したという(『ZARD/坂井泉水 ~forever you~』ミュージックフリークマガジン、2020年)。

 こうしたコンセプトから、ZARDはボーカルの坂井を中心とするバンドとしてデビューしたものの、まもなくして彼女のソロプロジェクトという形態へ移行していく。それでもその楽曲の基本は一貫してバンドサウンドにあった。

 ZARDデビューにあたって彼女に坂井泉水と新たな名前をつけたのも長戸である。それというのも、当時はグラビアモデルという仕事にはまだエロスのイメージが色濃くあり、そのキャリアがアーティストとしてデビューする彼女にとってはネガティブな要素になるとの懸念があったからだ。

「過去の仕事」をめぐり涙したことも

 しかし、当の坂井からすれば、それまでの仕事も納得して引き受けたものであり、かつての所属事務所のスタッフには、自分のために汗を流して仕事を取ってきてくれたと感謝していたほどだった。ZARDとして人気が出始めると、マスコミから過去の仕事についてさんざん詮索され、ときには事実無根の中傷記事が出て、人目を忍んで泣いたこともあったという(ZARD『永遠 君と僕との間に』幻冬舎、2019年)。

2023.05.31(水)
文=近藤 正高