プロデューサーとしての手腕
――藤井 風さんをはじめ注目されているアーティストへの楽曲をプロデュースされていますが、プロデュースする上ではどういうことを心がけていますか?
世の中にはアーティストも一般の人も含めて、“ド平均の人間”なんていないじゃないですか。藤井さんが特段に変わっている人っていうわけではなくて、彼は彼なりのものを持っているでしょう。ただ、彼だけではなく、“アーティストが神輿に乗っている感じ”ではないほうがいいと僕は思っています。
僕が土台だけ作って後は歌うだけというよりは、作った曲がその人のアイデンティティを代表していることを自覚してくれたら、幸せだなと思います。歌う人がそう思っていないとお客さんにも伝わらないんですよね。その曲に対してその人自身が全力を投じているかどうかというのが、成功するかどうかの境目みたいな……。
つまり、雑談とかを重ねて細かいディテールまで話して、結構たくさんの情報からヒントをもらうというのが大事なんです。僕はおしゃべりなので、曲を作らずに2、3時間しゃべることがあります(笑)。そういう積み重ねが彼ともあります。
――ご自身のアルバムを制作するのと、アーティストのプロデュースをするときは、スイッチの切り替えみたいなものはありますか?
テクニカルな意味での切り替えがあるわけではないですね。曲にアイデンティティを込める存在が自分になってしまうのが、かなり違います。
他のアーティストの楽曲をプロデュースするときは、そのアーティストが自分の作品だと思ってくれればいいと話しましたが、それが自分になってしまうほうが難しいんです。他のアーティストなら、その人が「いいですね」といってくれたら完成ですが、自分の作品の場合は、”本当にいいのかな”と自問自答してしまいます。
自分は作り手であり、聴き手でもあるので、普段から両者の立場を意識はしています。人に曲を提供する方がクールでいられるんですけど、自分の作品となると自分を追い込むしかないので、そこが結構難しいなと思っています。
2023.02.21(火)
文=山下シオン
撮影=平松市聖