古沢 家康の人生はあまりにいろんなことがありすぎて、書きたいことが山ほどあります。そういう意味では足りないぐらい。でも、その分物語の展開をはやく進めているので、これまでの大河になかったようなスピード感で展開していくのは見どころの一つだと思います。

 有働 これから1年間、家康を演じる松本潤さんに期待することは何でしょう。

 

徳川家康と松本潤の化学反応が見たい

 古沢 僕は松本潤さんが松本潤さんのままやり通してくれたら一番いいなと思っているんです。多くの役者が演じて出来上がってきた家康像に囚われることなく、とにかく徳川家康と松本潤の化学反応が見たい。あとはもう、書いてあることを好き勝手にやってほしいです。

 有働 有村架純さん演じる瀬名は、家康の初恋相手であり最初の奥さんになります。歴史好き以外の視聴者には馴染みのない名前です。

 古沢 今回、僕がすごく描きたかった人物のひとりです。これまでは悪女として語り継がれてきました。傲慢な女で怪しげな男と浮気していたとか。息子・信康(細田佳央太)の奥さんが織田信長の娘・徳姫で、嫁・姑の仲が良くなかったとも言われています。少しネタバレになっちゃうんですが、瀬名は数奇な運命をたどることになります。通説では今挙げていたような「悪女」エピソードが背景にあったとされますが、どれも真偽が定かではなく近年は別の見方も出ています。僕にはそんな卑近なことで家康があんな決断を下すとは思えない。「本当はこういう人だったんじゃないですか、瀬名さん」という気持ちで書いています。

 有働 瀬名、気になる〜。過去の大河とは違う徳川家になりそうな予感がしてきました。

 古沢 近年、徳川史観が見直されているんです。家康は死後、神格化されました。そのため、江戸時代になって作られた史料は家康の行動を正当化する一方、瀬名や信康の悪行が記されています。ところが、倒幕運動が起き明治の世になると、一転して狡猾な男と評された。その両極端のフィルターを通した家康像が現代に伝わってきているので、どちらもいったん取り外して、等身大の家康とその家族を、なるべく自分や視聴者が共感できるように書いていくつもりです。

2023.01.29(日)
文=古沢良太、有働由美子