まずは薄く切ってそのまま食べてみた。卵巣は切っているとたらこのようにやわらかくホロホロと崩れてしまった。卵巣は猛毒、もしかしたら死ぬのでは……と一瞬頭をよぎるが、そんなことより好奇心が勝ち小さな卵をまとめてつまむ。口にすると魚卵特有のプチプチとした食感。そして一瞬塩辛い。しかしすぐ塩気は感じなくなり、じわじわと味わったことのない滋味が広がりあとを引く。これは酒飲みが好きそうだ。
次にアルミホイルで巻いて少し焼いてみた。香ばしい香りがいかにも食欲をそそる。塩気の代わりに甘みが強くなり、そのままより食べやすくなった。ネット販売でも買えるそうだが、現地で出会ったら一度試してみてほしい。
91歳のマスターが営む純喫茶
アーケードから脇道にそれると小さな喫茶店を発見した。「パーラーアコ」だ。営業しているのかと窓から中をのぞくと、カウンターに座るマスターと目があう。その瞬間、入ろうか逡巡していた私の背中が押された。
「ようこそ。ここはいい音でジャズが聴ける喫茶店です。ジャズが聴ける喫茶店はほかにあっても、“いい音”で聴ける喫茶店はなかなかないよ」
迎えてくれたのはハツラツと喋る元気なマスター。店内にはマスター自慢のスピーカーが並び、豊かなジャズの音色が響いている。音響のことはよくわからないが、生演奏のような迫力あるサウンドは、素人の私でも“いいもの”であることくらいはわかる。
「これを見てちょうだい。これはアメリカ・ウエスタンエレクトリック社の真空管〈WE300B〉のアンプ。幻と言われていて、これを見にわざわざ来る人もいるんだ」
好きなジャズをいい音で楽しみながら、客との会話を楽しむ毎日。御年91歳という驚異の若々しさは、好きなものに囲まれ好きなことをし続けることで保たれているのだろう。
「いい音でジャズが聴ける喫茶店なんてほかにないんだから。小松には絶対に必要な店なんだ」
パーラーアコは昭和43年に開店。20歳から兄と家業の紳士服店で働き、37歳のとき独立してパーラーアコを始めた。店内はそのころから変わらず、今年の11月8日で54周年を迎えた。訪れた日はちょうど周年を迎えたばかりで、カウンターには周年祝にとお客さんから送られてきた真紅のバラが飾られていた。
2023.01.08(日)
文=あさみん