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周囲が心配するほど人相まで変わってしまった

 しかし松本人志的にいえば「正解」だったモリマンを、当時の芸人もお笑いファンも認めはしなかった。「ほんとストレスですね。お酒飲んでると、横で知らない人が『古今東西つまんない芸人、モリマン』とかやり始めるの。どこ行っても嫌な目に遭っていた」「ボケて、バッと笑いが起きてるのに、権力ある先輩が『うわ、さむっ』。そう言われたら、みんな『これ笑ったらセンスないと思われる』みたいな感じで、シュッとなる」。実際の男はチンコ出しても大してウケないのに、女であるモリマンがお尻を出したらウケる。

「女が下ネタやるからウケてるだけだ」というやっかみは、徐々に聞くに堪えないようなパワハラやセクハラとなりモリ夫に襲いかかった。「生まれてきたタイミングが悪かったのかなと思うけど、でも、あの時代だからあそこまで行けたんだなとも思う。昭和だったら私たちのネタでは出してもらえないでしょうし。今はもっとダメだし」「だからこそそこで耐えていた方たちは本当にすごいなと思いますよ。私は逃げ組だと思っているので」

 周囲が心配するほど人相まで変わってしまったモリ夫は、東京を離れ故郷の北海道へと帰っていった。

「『あの人が嫌だ』『この人が嫌だ』ではないんです。『何もかも嫌だった』ということに過ぎないというか。どの番組にも感謝してるんです。だけど『感謝しなきゃ』と思って感謝してた」

 「どこ見てんのよ!」で一世を風靡した青木さやかも、当時を振り返る表情はどこか物憂げだった。借金まみれの下積み時代、売れれば幸せが待っていると信じていた。「テレビに出てる人たちがすごい楽しそうに見えましたよね。(中略)あそこに行けば自分も元気になれるような。元気になれて借金も返せる」。しかし実際のブレイクは、彼女が考えていたユートピアではなかった。

2022.11.09(水)
文=西澤千央