「『タッチ』に出会って苦しいと思い始めました」

――せっかくの機会なので、『タッチ』のお話も聞かせてください。浅倉南を演じたことでのプレッシャーは、ありましたか。

日髙 『タッチ』は声優デビューして9カ月目の作品です。それまでの9カ月はアフレコが楽しくて、「声優の仕事って楽しい」としか思っていなかったけど、『タッチ』に出会って苦しいと思い始めました。それは、やっぱり大役ゆえのプレッシャーと厳しさ。

 当時は主役に新人が入ったら、周りをベテランで固めていました。ベテランの方々は瞬時に役をつかんで、スムーズにアフレコを進めるけど、私がひと声出した途端にNGが出てストップしてしまう。あの頃は、ストップするとフィルムを止めるので、ブースの明かりが点くんです。で、後ろを向くと、皆さんが頭を突き合わせてなにやら相談している。私が足を引っ張っているのを痛感した現場でしたね。

「ずっと南ちゃんと二人三脚で歩んできたことが幸せ」

――浅倉南が人生から離れない重みについては、いかがですか。

日髙 ひとつ大きな役で当たりすぎると次が難しいとは、若い頃にいろいろな方から聞かされましたけど。けれども、私の場合は『らんま1/2』で南ちゃんとは正反対のキャラクターである、天道あかねちゃんに出会えたことでイメージを払拭できたんじゃないかと思います。自分でもガラッと変えたくて、男の子の声にチャレンジしたこともあったし。

 でも、今となっては、ずっと南ちゃんと二人三脚で歩んできたことが幸せだったんじゃないかって。だって、今年の夏の高校野球のCMで主人公の声をやらせていただいたうえに、南ちゃんと私が隣同士で応援している写真が新聞に載ったり、それを甲子園球場で配ってもらえたりしましたし。「いいんですか?!」という気持ちでしたけど(笑)。

 これが35歳くらいだったら「私、南ちゃんとかけ離れてる」って意識してたと思うんです。けれども、もうかけ離れて当然というところまで来てしまっているので「えっ、まだ私やっていいんですか?」みたいな喜びしかないというか。すっかり、楽しめるようになりました。

写真=末永裕樹/文藝春秋

2022.08.29(月)
文=平田裕介