佐藤 ダイアナさんの死で英王室の人気は地に堕ちましたよね。チャールズとカミラの不倫関係というのも最悪だった。
労働者たちは自らを王室に見捨てられたダイアナに投影
君塚 ダイアナが亡くなったその日、私はイギリスにいました。連日、バッキンガム宮殿の前には労働者階級、特に失業者や非白人のイギリス人、女性や子どもなど、社会的に弱い立場の人々が大挙して、献花と記帳に訪れました。宮殿前は大賑わいでしたが、800キロ離れたスコットランドのバルモラル城に滞在していたエリザベス女王は気が付いていませんでした。
佐藤 君塚先生、現地にいらしたんですね。
君塚 はい。大変な騒動でした。英王室はダイアナがすでにチャールズ皇太子と離婚して“元妃”となっていたことから、声明も出さず、半旗も掲げていなかった。そんな女王に国民は反発の声を上げました。ちょうどブレア首相が景気回復を図る直前で、「現代風のブルジョア革命」とも呼ばれたサッチャー革命に取り残された労働者たちは、自らを王室に見捨てられたダイアナに投影したのです。
宮殿に戻った女王は、とんでもない献花の数に唖然としたそうです。これからは君主が国民に姿を見せなければならない、王族が日頃、国のために何をしているのか、自分たちの手できちんと伝えていかなければならない、そう決意したのです。
佐藤 私、6月に公開されるエリザベス女王のドキュメンタリー映画の予告を先日、映画館で観ました。
君塚 私はすでに試写会で観ましたが、あれは面白いですよ。
佐藤 やっぱり! 絶対観に行きます。そこで、女王が「女王をやるって、あなた、結構大変なのよ」なんて言ったりするんですよね(笑)。
「宝石って、石なのよ」
君塚 女王の象徴ともいえるインペリアルステートクラウン(大英帝国王冠)は、彼女が91歳まで毎年、議会の開会式に出席する際にかぶっていた王冠ですが、1.5キロくらいある。チャールズ皇太子が子どもの頃、夜中に隣の部屋から物音がすると思ったら、母が開会式を前に王冠をかぶって歩く練習をしていたなんて話もあります。「あなた、考えてごらんなさい。宝石って、石なのよ」と話していたとか。
2022.07.04(月)
文=「文藝春秋」編集部