顎を引くとは、要はこっちが餌撒いて相手の様子をうかがうってこと。交渉事でもスポンサーを口説く時でも、相手が手強そうなら、まずはちょっと相手の顎を引いてみる。もし脈がありそうだと感じたら、何か贈ったりしてみる。
まあ定番だとメロンとかさ、贈るわけよ、手紙も添えて。そういう攻め方を「顎を引く」っていうの。昔から商談する時なんかにみんなやってた戦法よ。顎引いて、相手の反応があったら次の段階に進むってわけ。
たとえば、「今度、この社長と商売できるかな」って思う会社の社長がいる。その社長が最近店に来ない。会社の経営状態はどうなんだろう? そこで、ちょっと調べて顎を引いてみる。
しばらくして、社長が久しぶりに店の前を通りかかった。声をかけてみる。その時、「何か手土産でも渡そうかな……いや、この雰囲気だと触らないほうがいいかな……」といった具合に、お互いがすれ違って、一つか二つの会話で判断できるようになるまでが大変。そこまでわかるようになるには、相当恥ずかしい思いもする。失敗するの。だけど、散々恥をかいたら、かいた分だけ、相手の顎をうまく引けるようになるのよ。
若い人は失うものなんてないんだから、どんどん恥をかきなさい。
ちょっと背伸びをするから、人間は伸びる
うまい具合に「顎を引く」にはどうするか。結局は、本人の感性の問題になっちゃうんだけど、感性を磨くことなら誰でもできるよね。
感性を磨くために、趣味や習い事に励んでみるのもいい。少々の贅沢をしてみるのもいい。できたら、少し背伸びしたものに触れると、さらにいい。
営業先の相手がどういう育ちの人かわからないこともあるでしょ。普段から、ほんの少し背伸びしたことにもチャレンジしておけば、相手と共通の趣味が見つかることもある。ひょんなことから、仲良くなるきっかけがつかめたりするじゃない。
子供の頃から、塾にばっか行くんじゃなくて、習い事をしたり、趣味に励んだり、道楽をするのよ。勉強以外のいろいろなものに触れてないと、顎を引く感覚みたいなものは身につかない。道楽や遊びによって磨かれた感性が、後々の人脈作りに役立ってくるんだから。ちょっと背伸びしないと、人間は伸びないのよ。(#2に続く)
浅草の84歳名物女将が語る、女性に絶対に言ってはいけない「野暮なセリフ」とは? へ続く
2022.01.02(日)
文=冨永 照子