●少女マンガならではのファンタジー性やケレン味

――12年には、小畑友紀原作の少女マンガを2部作で描いた『僕等がいた 前篇・後篇』を、生田斗真&吉高由里子主演で手掛けます。

 無我夢中でやっていたので、たとえ前・後篇の2部作になったところで、一本撮ることと、あまり変わらないと考えていました。自分のなかでは、そんな無知の強さみたいなものが大きかった時代ですね(笑)。そして「自分なりの映画作りって何だろう?」を考え始めた作品でもあります。

 たとえば、『ソラニン』の生っぽさやリアルとは異なる、少女マンガ原作ならではのファンタジー性やケレン味の部分を、どう映像化するか。この作品以降、組むことになるカメラマンの山田康介さんとも、女優を魅せることのケレン味の塩梅みたいなことを、よく話し合うようになりました。

――翌13年、松本 潤&上野樹里主演による『陽だまりの彼女』では、“大林イズムの後継者”として注目されるようになりました。

 ファンタジックなラブストーリーということで、『さびしんぼう』など、自分がもっとも影響された大林作品を意識して撮った最初の作品ですね。かなり飛んだ設定ですが、大林チルドレンとしては、特に動じることなく、ファンタジーならではの大嘘を信じ切ってやらせてもらいました。なので、しっかりクリアできたかな、と思っています。

●原作者とファンが喜んでくれることを意識

――14年、紡木たく原作の『ホットロード』を、能年玲奈(のん)&登坂広臣で撮られたときは驚きました。

 自分が一切通って来なかったヤンキーカルチャーを時代劇のようなファンタジーとして捉えた『ホットロード』のときは、周囲の反響もスゴかったですね。自分の強みとして、職業監督としての自負というか、「作品を選り好みしない」ということがあるんです。

 それはMV時代に培われたものであり、自分がディレクションする以上は、どんなアーティストであっても、その人や楽曲の良さを最大限に映像で表現しようと思っています。打席に立つからには、必ず打つように心がけてはいます。そして、原作者、そして原作ファンが喜んでくれることをいちばん意識しています。

――その後、14年に咲坂伊緒原作の『アオハライド』を本田翼&東出昌大主演で撮られます。20年には『思い、思われ、ふり、ふられ』を撮られますが、そんな咲坂作品の魅力は?

 咲坂先生の作品のどこが好きかというと、日常的な感情の上がり下がりがとても丁寧で、誰もが共感できるところなんです。でも、これを映像化することは、かなり難しい。たとえば、繊細なモノローグで語られていることやキャラクターの感情。半径10メートルぐらいの話を映画として成立させることは、ある意味挑戦だと捉えています。そのように難しいからこそ、作り手として燃えるんです(笑)。

~次回は監督最新作『夏への扉-キミのいる未来へ-』についても語っていただきます~

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三木孝浩(みき・たかひろ)

1974年8月29日生まれ。徳島県出身。98年、ソニー・ミュージックに入社し、多数のミュージックビデオを手掛ける。その後、10年『ソラニン』で映画監督デビュー。長編3作目『僕等がいた』以降、『ホットロード』『アオハライド』など、少女マンガ原作の恋愛映画を多く手掛ける。次回作は『TANGタング』(2022年公開予定)。

映画『夏への扉 -キミのいる未来へ-』

1995年、ロボット開発に従事する科学者・高倉宗一郎(山﨑賢人)は、愛猫ピートと恩人の娘・璃子(清原果耶)との穏やかな日常を送っていた。だが、信頼していた共同経営者と婚約者に裏切られ、開発中のロボットや蓄電池を奪われてしまう。さらに人体を冷凍保存する装置・コールドスリープに入れられ、2025年の東京で目を覚ます。大切な人を救うため、時を超えるSFラブストーリー。
https://natsu-eno-tobira.com/
絶賛公開中
©2021 映画『夏への扉』製作委員会

Column

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2021.07.02(金)
文=くれい響
撮影=山元茂樹