島では今も毎年5回、神事「ウヤガン」が行われている

 また、島の北部へ向かうと、風光明媚な奇岩群が見られます。

 島の隆起によって地表から転がり落ちた岩がピシ(裾礁)に鎮座し、波の浸食によって水面下の部分が削られた、“ノッチ”と呼ばれる奇岩がいくつも並んでいます。絶妙なバランスを取っている巨岩ばかりなので、いつ崩れて、違う風景に変わってしまうか、わかりません。今しか見られない風景です。

 ガイドさんからは、島にまつわる話をいろいろと聞くこともできます。

 たとえば、大神島にとって最も重要な神事「ウヤガン」。毎年5回、3~5日ずつ執り行われる祖神祭で、“ウヤガン”と呼ばれる巫者(ふしゃ)のような女性が御嶽(うたき)にこもり、ガイドさんいわく、ほぼ飲まず食わず、一睡もすることなく秘儀が続くそうです。

 初日、ウヤガンは朝から普段着で森にこもり、世話をする“トモウマ”が儀式のための装束を届けます。3~4日目のことは、島民は見てはならず、ウヤガン本人しか、知りえません。ただ、島内の御嶽を回っているのか、あちこちからウヤガンの唱える声が響いてくるといいます。

 かつてウヤガンは11名いたけれども、今は84歳の女性1名のみ。そしてこの神事がいつ行われるかもあらかじめ決まっているわけではなく、島民ですら数日前に突然、知らされるのです。

 島内案内が終わって、島で唯一の食堂「おぷゆう食堂」で名物のカーキだこ丼を食べていたら、向かいに座っていたおばあさんが話しかけてきました。

 「明後日、神様がやってくる。5日間山に入るからね、山に登れなくなるよ」。このおばあさんがウヤガンさんだったのでしょうか?

 実は、大神島の存在は20年以上前から知っていました。海賊王キャプテン・キッドが財宝を東経125度の東シナ海の島に隠したらしい、それが大神島ではないか、というウワサを聞いたことがあったのです。

 どうやら、その伝説は根も葉もないことのようでした。ただし、キッドではないけれど、海賊にまつわるショッキングな伝説を聞きました。

 300年前のこと、大神島へ略奪に訪れた海賊が全島民を殺戮。山に隠れて生き残った兄妹が、大神島の祖先だという話。

 実際にその家は今も存在し、ウヤガンの初日はそこから出かけるそう。美しい島に伝わる、悲しい奇譚も、島の記憶として、語り継がれています。

大神島

●アクセス 宮古空港から島尻港へ車で約30分(バスの場合、1度乗り換え、所要時間約1時間)。島尻港から大神島へは、定期船で約15分。

古関千恵子 (こせき ちえこ)

リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること1/4世紀あまり。
●オフィシャルサイト https://www.chieko-koseki.com/

Column

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2021.07.03(土)
文・撮影=古関千恵子