伝統製法と五感で磨き上げたうまさが、家庭料理にもよく合います
かけがえのない和食文化を未来につなぐことを求め、「一汁一菜」など持続可能な家庭料理のしあわせを広く伝え続けている料理研究家の土井善晴さん。
「ものづくりの姿勢は隠しようもなく味の良し悪しに出る」と語る土井さんが出会ったのが、今年リニューアルされたキリンビール「本麒麟」です。
「本麒麟」が追い求める“本当のうまさ”とは? そして、その味わいを生み出しているものづくりのこだわりとは? 味の総責任者であるキリンビールマスターブリュワー田山智広さんと語り合いました。
2018年3月に発売となるやいなや、瞬く間に大ヒット商品となった「本麒麟」。その力強いコクと飲みごたえが好評を博し、多くのお客様に支持されています。
その「本麒麟」が今年、味覚、パッケージデザインともにリニューアル。「本麒麟」の特長である飲み飽きない味わいに加え、コクと飲みごたえが向上され、より完成度の高いうまさが実現されています。赤×金のカラーリングによるパッケージデザインからも、上質へのこだわりが伝わってきます。
その「本麒麟」の味の総責任者が、マスターブリュワー(醸造責任者)である田山さん。土井さんとは初めての対面ですが、顔を合わせたとたん、「お話を聞かんでも、田山さんのものづくりが分かる気がするわ」と土井さんは相好を崩しました。
土井 僕ね、ビール類の開発者や技術者の方とお話をしたら面白いやろうなぁと、ずっと思っていたんですよ。僕が考えていることと共通するところがいっぱいあるような気がして。特にね、「おいしさってなんだろう」ということ、これを僕はずっと考えてきたんです。
田山 僕もそうです。キリンビールにはキリンビールのおいしさがあると思っていますが、じゃあ「おいしい」って何なんだろうって。おいしさって、舌とか鼻とかだけじゃなく心や頭でも感じる脳内イベントで、それぞれのお客さんの中にあるものなんですよね。
土井 そうそう。味覚や嗅覚は言語中枢とつながってないから、言語化できないんですよ。言葉では説明できない。ただ「おいしい」だけ。でも、言語化できないから、その場に居合わせた人、家族だけが「あれ最高やったな」と共有できる世界が生まれる。
田山 結局人間の感覚なので、数値的な指標で味わいの良し悪しが測れるわけじゃない。だから、テクノロジーだけではなくて、五感を研ぎ澄ませて音や匂いを確かめ、ハートで感じることが大事になってくるんですよね。
土井 機械では測れない、計測できない微妙な違いまで、人間はわかるんですよ。だから、おいしいものというのはね、そこに仕事のプロセスが見えてしまうんですよ。ものづくりの姿勢は、隠しようもない。だから怖い。
田山 ましてやビール類は工業製品とは違って原料も農産物ですし、発酵というまさに生き物の力で生み出されるものなので、コントロールなんかできないんです。キリンビールには『生への畏敬』という醸造フィロソフィーがあるんですよ。麦やホップ、それから酵母、そういった生物の力を畏れ敬い、勝てる相手ではないけれど真摯に向き合って、なんとか高みに到達するように努力していこうというのが、我々技術者の第一の哲学なんです。
土井 「つくる」は、人偏の「作る」じゃなくて「造る」ですからね。人間技じゃないんですよ。「おれが作ってるんだ」という気持ちを戒め、謙虚な気持ちで向き合わないと、おいしいものは生まれてこない。それは、和食の世界でも同じことです。
土井 リニューアルされた「本麒麟」を飲ませていただきましたけど、今までとはまた違うおいしさがありましたね。言葉がヘンかもしらんけど、ちょっとごろんとするというか。
田山 ごろん! それは初めて聞いた表現です。
土井 こう「転がり方」というかね。ビール類って喉を流れていくものだけれど、そのスピード感が「本麒麟」は少しゆっくりですよね。存在感があるとも言えるし、強さや大きさ、太さも感じる。わたしは非常に面白いと思います。
田山 それはとてもうれしいご感想ですね。実は今回のリニューアルでは、貴重な原料を使って、しっかりつくり込んでいるんです。
土井 ほおー。その貴重な原料ってなんなんですか。
田山 ホップです。キリンビールは昔から、良質な苦みが特長のヘルスブルッカーというドイツ産のホップを大事に使っているのですが、「本麒麟」ではリニューアルにあたってこの貴重なホップを増量しました。「本麒麟」という名前にふさわしく、本格的なビール類の要素をふんだんに取り入れようと。
土井 なるほど。
田山 さらに、熟成にも通常よりも1.5倍の時間をかけています。低温で長期熟成※することで、バランスが良く雑味の少ないクリアな味わいが生まれるんです。これもキリンビールが大事に受け継いでいるラガービールの製法なのですが、「本麒麟」についても、迷うことなくその製法を選びました。時間がかかって効率が良いとは言えませんが、そこまでこだわっておいしさを追求するのが「本麒麟」だよね、と。(※キリンビール主要新ジャンル比)
土井 やっぱり味噌でもなんでもね、1日だけじゃなくて1カ月食べて2カ月食べて3カ月食べて、毎日「あぁおいしいな」って言えるようなものでないと、本当においしい味噌じゃないんです。今日食べて「おいしい」言うても、飽きたら困る。
田山 それは理想ですね、本当に。お客様にまた飲みたいと思っていただける飲み飽きない味わいが、キリンビールの理想とするところです。
土井 僕はこの「本麒麟」を飲んで、あっさりめの料理に合わせるイメージをお持ちなんやないかと感じましたね。これまでビール類というと揚げ物とかに合わせやすいシャープな味わいにシフトしていたけれど、「本麒麟」はどちらかというと、家で食べるサラダとかおひたしとか、さっぱりとした野菜料理や和食にも合わせやすい。
田山 日本はヨーロッパと違い、ビール類だけ飲むというよりも食事と一緒に楽しむシーンが多いんですね。とくに新型コロナウイルスの影響から自宅で食事をする機会が増えていますし、家庭料理に合う味わいは意識しましたね。
土井 そういう社会の変化までちゃんとご覧になっているということが、今の「本麒麟」の味にしっかり表れていますよ。つくり手としては、こういうスタイルで飲んでほしいというようなおすすめの飲み方はあるんですか?
田山 いやもうご自分のお好みの飲み方をしていただければよいのですが、少しでもこだわりを持っていただけると、いっそう楽しんでいただけるかな、と。グラスとか、温度とか。
土井 温度によって味や香りの感じ方は相当変わりますよね。
田山 変わってきますね。「本麒麟」も温度がちょっと上がってくるといろんな香りが出てきますので、缶を冷蔵庫から出してからすぐに開けず、ちょっと置いておくとか。できれば冷蔵庫でも開け閉めで温度変化するドアポケットには入れないでいただきたいですね。
土井 何度ぐらいが理想?
田山 お好みはありますが、まあ10℃前後でしょうか。
土井 ちょっと高めやね。
田山 それと、先生が先ほど「転がり方」とおっしゃっていましたが、スピードという意味でも、少しゆっくり食事をしながら味わっていただけるといいのかな、と。グラスに注いで、ちょっとずつ温度が上がってくると、最初の一くち目と二くち、三くち目で味が変わってくるので、その変化に気づいていただきたいですね。そういった違いこそ、豊かさだと僕は思っていますので。
土井 それはそうですね。いま田山さんが冷蔵庫のドアの話をされたけど、ビール類をドアポケットに置かないというのもそうだし、冷蔵庫のドアを閉めるのでもバタン! と閉めるのもあかんねん。当たり前やけど、そういう振る舞い一つで味も暮らしも変わるんです。当たり前のことを当たり前に丁寧にしていないと、ビール類の良し悪しなんて絶対わかりません。なんでかいうたら、感性というのは違いがわかるということやから。
田山 確かにそうですね。
土井 自分がちゃんと暮らしの中で料理を作って綺麗に整えて、そういう当たり前のことを毎日繰り返し続けることで違いがようやくわかってくる。その違いに自分で気がつくっていうことが一番の喜びやし、つくり手にとっても、ビール類の違いやおいしさをわかる人がおって初めてつくりがいもある。全部つながってんねん。味わう側とつくり手というのは一つの文化の中にいてるということが、すごく大事なんです。それをつなぐのが食文化です。食文化は、風土とか自然との関係性のなかで人間が身につけていくもんやから。
田山 本当におっしゃるとおりですね。僕は、おいしいっていうのは生きるための力を引き出す感覚だと思うんですよ。すごくポジティブな感覚だから。おいしいと感じる時間、あるいはおいしいって感じること自体が、何か前へ向かって、たくましく生きていくための力になると思うんですよね。
土井 そうそう、おいしさはね、思いがけないご褒美なんですよ。それが喜びの経験として蓄積されていくんです。
田山 そういう生きる力になるビール類をつくっていけたらと願っています。先生の前でおいしさを語るなんておこがましいんですけど。
土井 いやいや、通じ合う部分の多いお話ばかりで、本当に楽しかった。またどこかでぜひ、お話しましょう。
キリンビール
フリーダイヤル 0120-111-560
https://www.kirin.co.jp/
2021.06.10(木)
取材・文=張替裕子
スタイリング=中山暢子
撮影=鈴木七絵