“娘役”から女優として。自分でしっかり立たなければ

――退団後に女優になられて、いま演じる女性の役と宝塚の娘役とは、違いを感じるものですか?

柚希 全然違うらしいですね。

愛希 はい。それは辞めてからすごく感じました。隣に男役さんがいてくださることの安心感というのでしょうか。もちろん舞台上では対等ですし、自分ひとりの場面では自分でしっかり立たなければいけないんですが、それでも、どこかに男役のトップスターさんの存在というものをつねに感じているんですよね。

 歌のキーや声のトーンひとつとっても、男役さんが基準で、そこに合わせていっていたのが、そこがなくなると支柱を失ったような不安感があって。私は、娘役としてわりと自分を貫くような役が多かったですけれど、それでも、どんな時も近くにいてくださったからこそできていたんだなと、あらためて感じました。

柚希 確かに、宝塚ではお芝居も踊りも、カツラも衣裳もアクセサリーも、男役に合わせていたからね。

愛希 全然別のように見えても、どこか一個共通する部分を作るなど、そういうことは気にしていましたね。辞めてみたら、それって男役さんに甘えていたってことなんだって気づいたんですよ。なんというか……私はひとりで、私自身は何もないような気持ちになりました。

柚希 相手の男性に合わせて作っていくやり方というのは、宝塚以外では当てはまらないの?

愛希 そう思います。そこからは自分をどうしていったらいいか……自分の個性とか、自分と向き合う時間をたくさん作りました。

柚希 娘役もたくさん苦労があるよね。これは“男役あるある”なんだけど、退団して、いざ女性役を演じるってなった時に、まず「“女”ってどうだったっけ?」っていうところで悩むんです。“女”がわからなくなっているんですよね(笑)。それで、お手本にするのが娘役になるのだけど……。

愛希 きっとそうですよね。

柚希 前回、さち子さんに「ぶりっ子みたいなことをしないで」って言われたんですよね。女性を演じようとするあまり語尾が甘くなっちゃって「可愛いと思われたがってる女に見える」って言われたり。自分では意識していなかったけれど、ついそうしてしまっていたんでしょうね。だから前回は、人に好かれたがる演技にならないように、というのを学びましたね。

――『マタ・ハリ』では、タイトルロールをWキャストで演じますね。同じ役を演じることに対して、どのように感じていますか?

柚希 在団中にはWキャストってなかったよね。

愛希 私も経験がなかったです。

柚希 退団して、ミュージカル『ビリー・エリオット』が初めてで、その後も『ボディガード』くらい。Wキャスト慣れしていないものだから、相手のいいところばっかり見えて、途端に自信がなくなってしまって迷子になってしまったんですね。

 その2作を経験して、いまようやく他人と比較せず、自分の芯は保ちつつ相手のいいところを学ばせてもらおうっていうスタンスになってきたところ。

愛希 私も初めてのWキャストが『エリザベート』で、そのお相手が、宝塚の娘役として素晴らしい実績を築かれてきた花總まりさんですから、それこそ「私なんか……」でした。娘役として憧れの存在ですし、日本初演のエリザベートを演じられた方でもあって……最初はガッチガチでした。自信がなくなって「舞台に立ちたくない」って思うほど落ち込んだ時期もあったくらい。でも、花總さんがとても大きな気持ちで迎え入れてくださって、同じ舞台には立たないながらも、一緒に役を作っていく感覚になれたんですよね。

 花總さんがつねに対等でいてくださったことで、自分も同じ役で同じだけ公演させていただく責任があるんだとあらためて実感できましたし、一緒に作っていくんだから、もし悩んだら相談させていただいてもいいんだっていう心強さも感じました。いまは、Wキャストというものをプラスに捉えることができるようになりました。

柚希 そうなんだ。今回、Wキャストの相手がちゃぴちゃん(愛希さんの愛称)で、お互いに持ち味が全然違うから、必然的にまったく違うアプローチになると思うんですよね。だから私もネガティブに捉えるんじゃなく、「なるほど、こうしたらこういう歌は歌いやすいんだ」って、稽古場で勉強させてもらう気持ちで臨もうと思ってます。

2021.05.22(土)
文=望月リサ
写真=鈴木七絵
ヘアメイク=黒田啓蔵(Iris) 、杉野智行(NICOLASHKA)
スタイリスト=間山雄紀(M0)、山本隆司