「本当はこれに粉の挽き方の違いもあるので、その食感はもう無限大に広がるんです」と井上さんはたたみかけてくる。熱い人である。
ネバリゴシを使った醤油うどんを食べてみると…
ちょうど、ネバリゴシで打ったうどんがあるというのでいただいてみることにした。ゆで時間は約10分。やや麦色をしたピカピカのうどんが登場した。うどんの耳(生地の端っこの部分)も一緒に添えてある。それにだし醤油で有名な香川県の鎌田醤油を2回しうどんにかけてもらい食べてみた。たしかにこれはすごいネバリゴシだ。ねっとりとしてもちっと吸いつくような食感である。こんな食感のうどんは今まで食べたことがなかった。でんぷんのマジックとでもいえばいいのだろうか。
「吉田のうどんのように、強力系の粉で作る硬いうどんもあれば、博多うどんのようにじっくりと加熱してふわっとしたうどんもあります。このネバリゴシのうどんもじっくり熱が伝わっていて、でんぷんの特性が十分に引き出されたうどんです。うどんのおいしさは、その人に合う/合わないみたいな部分は確かにあると思います」と井上さんはさらに熱く語り続ける。
自分と一緒に成長して行くお客さんの反応が楽しくてたまらない
「松ト麦」を始めて一番楽しいことは何かと聞いてみると、開口一番次のように話して来た。
「とにかく、お客さんの反応が楽しくて面白くてたまらない」という。お客さんが食べなれてきたうどんと全くの別物のうどんに出会った時の衝撃のような反応が面白いのだという。かつて自分が食べて感じた感動を、お客さんが今体験しているのだと思うとすごく嬉しいというわけである。
それとプロの方、つまり、製粉会社の方や有名うどん店の店主、製麺所の方などがかなり来店されているという。
最近はそういう常連さんたち同士でうどん話に勝手に花が咲くようになってきたとか。そして、初めてのお客さんにも、ていねいにプロのレベルの話を教えてくれたりするという素敵な循環が生まれているというのだ。井上さんの言うところの、まさにここは「うどん沼」なのである。
2021.02.28(日)
文・写真=坂崎仁紀