「こうした図でも古いから食感がよくないというわけではなく、例えば農林61号は1944年誕生の古い品種ですが、うどんとしてはかなりうまいし、2010年に誕生したさとのそらよりも好きだという人もいる」と井上さんはいう。なるほどなかなか深い世界だ。
国産小麦粉は製粉所などに直接連絡して仕入れている
「国産小麦粉は大手製粉所や小さな製粉所、農家さんなどに直接連絡して仕入れしている」という。たまに希少な種類に出会うことができて楽しいのだという。こうなると井上さんはもはや「うどん用小麦粉ハンター」ということになるのだろう。
「同じ品種でも地域や挽き方が異なると味や食感も微妙に変わります。この違いを発見するのは本当にわくわくする」と井上さんは力説する。
お店では2種類位の小麦粉で打ったうどんを用意して、その違いがわかるようにしている
「松ト麦」では短冊にある小麦のうち、定番としてネバリゴシ、もう1種類を週替わりで提供しており、この2種類から選んでもらうシステムを取り入れている。
「味わいや食感の違いを楽しんでもらうようにしています」と井上さんは話す。ワンオペで営業しているし、常時提供できる量は少ない。
「お客さんとうどんや小麦の世界を語り合いながら、ゆっくりじっくり食べてもらうようなスタイルになっている」という。やはり、ふつうのうどん屋さんとは違うスタイルになっているようだ。少ないロットのうどんだからこそできる実験工房的な要素も多いのだろう。
なるべく冷たいうどんと温かいうどんを提供するようにしている
そして、「松ト麦」では同じ品種でも冷たいうどんと温かいうどんを提供するようにしている。冷たいうどんの場合は、だし醤油をかけたもので素材の香りと味わいを楽しむ。温かいうどんの場合は、鰹節を基本にイリコやあごなどで出汁を工夫して、地域の小麦にあったつゆを提供している。冷たいうどんとの違いを楽しむのも人気になっているという。
2021.02.28(日)
文・写真=坂崎仁紀