それぞれのキャラクターに人生と思想がある

 すべてのキャラクターに言及する余地がなくなってしまったが、ランキング全体を見渡して思うのは、誰が何位かという話とは別に、本当によく票が分散している、これだけ多い登場人物にそれぞれちゃんとファンがついているということである。

 これはキャラクターの魅力と個性が立っている作劇の見事さに加え、『鬼滅の刃』キャラクター一人一人に内面と信念があるということも大きいと思う。

 たとえば甘露寺蜜璃という女性キャラクターは一見コケティッシュでグラビア的なアイキャッチキャラに見えるが、大食と髪の色で女性らしく見えず見合いに失敗するというジェンダーロールからはぐれた戦う大正女性として描かれ、女性ばかりの一族で生贄として育ったため女性が苦手な男性剣士・伊黒小芭内と恋に落ちる物語が描かれる。

 善逸という少年の描き方も含め、弱者男性やフェミニズムというビビッドなモチーフを持ち込みながら、それを一捻りもふた捻りもして作品に昇華している。

 空前のヒットによって多くの『鬼滅の刃』分析論が書かれているが、『鬼滅の刃』という作品は右派と左派、ヒット作品をめぐってしばしば対立してきた両陣営から同時に支持されるという不思議な傾向がある。

 作者が押すひとつのイデオロギーで作品が染められているのではなく、それぞれのキャラクターに人生と思想があるマルチイデオロギー的作品として、右派と左派から同時に自己を投影されて支持されているのがこの作品の特異な点であるのかもしれない。

 最後に、この第二回ランキングは今年の春に締め切られ、新型感染症の影響で集計が延期されていた、連載完結のかなり前の人気投票であることを付記しておきたい。物語が幕を閉じた後、映画の大ヒットで作品に触れる観客はさらに桁外れに膨らんでいる。

 もしも第3回の投票があったら、ランキングはどう変わるのだろうか。「人の評価は棺の蓋を覆うまでわからない」という諺があるが、無惨様という稀代の「憎まれ役」の評価はその死によってどう変わるのだろうか。ぜひ知りたいものである。

2020.11.18(水)
文=CDB