子供たちに学ぶ楽しさ、目標達成感を与える

 この魘夢の部分はほぼ原作通りなのだが、ここを映画化部分に選んだスタッフの判断も素晴らしいと思う。劇場映画に求める暴走列車のスペクタクル、鬼殺隊メンバーの個性と技を戦いの中で一人ずつ紹介できるわかりやすいサンドバッグぶり、すべてが劇場映画の前半導入にうってつけなのだ。

 「俺にも実はこんな可哀想な過去があったんだよね」的アピールも特になく、メインイベントの煉獄さんVS猗窩座の悲劇的カタルシスに繋げてさっさとリングを降りていく引き際も見事である。悪役レスラーとしても屋上ヒーローショーの怪人としてもプロと言わざるをえない。

 子供たちの心に「とにかく魘夢をやっつけて面白かった。またやっつけたい」という成功体験として残り、ランキングに入るのも納得の結果だろう。

 これが無惨様であったらどうだろうか。そもそもバカ強いので現段階の炭治郎たちではまるで歯が立たない上に、心臓が7つ脳が5つあるので斬っても斬ってもまるで効かず、子供たちに学ぶ楽しさ、目標達成感を与えることができない。

 しかも平安貴族出身のくせにやたらと他人を上から罵倒するので学習意欲を阻害し萎縮効果も生んでしまうだろう。まことに悪役として教育的問題があると言わざるをえない。

 日本中のお父さんたちが今、子供たちが水の呼吸で振り回す丸めた新聞紙で斬られてみせたり、サランラップの芯をくわえた我が家の禰豆子にひっかかれたりしていることと思うが、子供たちを育てる悪役は無惨様ではなく魘夢。これを覚えていただきたいと思う次第である。

2020.11.18(水)
文=CDB