佐々木俊尚 1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『本当に使えるウェブサイトのすごい仕組み』

【KEY WORD:家電メーカー】

 家庭用電化製品を開発製造するメーカー。1950年代後半、白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫の家電3品目を発売。高度経済成長の象徴として「三種の神器」と呼ばれた。その後も日本の基幹産業として日本経済を支えたが、最近では円高や震災などの影響もあり、業績不振が続いている。

不調の原因は市場の流れを読めていないこと

 家電メーカーが苦境に陥っています。ソニー、パナソニック、シャープの家電3社はどこも大赤字。おまけにこの状況から脱する方法もまだ見えてはいないようです。

 なぜこんなことになってしまったのか。直接的な原因はいくつかあります。まず日本国内の市場では2011年、テレビの地デジ化とアナログ停波でテレビの買い換え需要が前倒しでふくれ上がりました。12年はその反動でテレビ需要が冷え込んだのです。第二に円高。海外の市場で売れまくる中国・韓国・台湾のメーカーの製品と比べると、日本の製品は国内の高い賃金と円高という二つの負担を負わされ、安価に販売するのが難しいという問題があります。

 しかしこうした直接的な原因だけではなく、もっと根源的な問題は、日本メーカーが市場の変化を捉え切れていないこと。家電の最先端は、アップルのiPhoneやiPadにしろ、日本でも昨年の秋発売されたアマゾンのKindleにしろ、すべて、売りは「サービス」です。

 たとえばKindleでは、いったんKindleストアという電子書籍販売サイトで本を購入すると、専用の電子書籍端末だけでなく、手持ちのスマホやタブレット、パソコンなどあらゆる機器で本を読むことができます。しかも機器をケーブルで接続する必要もなく、自動的に本のデータが送り込まれてくる。どこまで読んだのかという情報も自動的に同期されます。

 つまりここではKindleという機器は、単なる「歯車」みたいな役割しか果たしていません。これからの家電はこのように、単体の製品としてではなく、サービスの一部として利用されるようになるというのが、一大潮流になってきているのです。日本の家電メーカーには残念ながらこうした発想が乏しく、アップルやアマゾンに追いつけていません。かといって中国や韓国のメーカーのように安価に製品を作るのも難しく、宙ぶらりんの状態。これが日本の家電の衰退の原因になっているのです。

2013.01.07(月)

CREA 2013年2月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

一生分のお金のつくり方

CREA 2013年2月号

今、財力こそ女の武器!
一生分のお金のつくり方

定価 670円(税込)