展示そのものをインスタレーション作品として見せる彼独自の手法

in flight astro (ii), 2010
(C) Wolfgang Tillmans. Courtesy Galerie Buchholz, Cologne/Berlin

 ティルマンスの個展では、写真の見せ方にも多くの工夫が施されている。写真の展示そのものをインスタレーション作品として見せるという手法は、彼が独自に切り開いてきたものだ。写真プリントの種類は印画紙、インクジェットで出力されたもの、雑誌などの印刷物が混在。さらにプリントのサイズや額装の仕方、壁面への固定の方法なども変化に富んでいる。一見するとテーマも表現方法も展示方法もすべてがバラバラなようだが、それらを絶妙なバランスで配置することで、ひとつのアーティスティックな表現が立ち上がっている。

Anders pulling splinter from his foot, 2004
(C) Wolfgang Tillmans. Courtesy Galerie Buchholz, Cologne/Berlin

 この展覧会でも展示されている「Neue Welt」(新世界)はティルマンスが近年、デジタルカメラを手に世界各地を旅しながら撮影した新しい連作だ。撮影地は南米最南端のティエラ・デル・フエゴ、タスマニア、サウジアラビア、パプアニューギニアなど。それらの写真はグローバル化する市場経済、政治、近代化をめぐる問題と密接に結びついている。写真を通じて世界を見続け、その結果を人々に届ける。発想の伸びやかな自由さと表現の誠実さ。ティルマンスが多くの人々に支持される秘密はそこにあるのだ。

ウォルフガング・ティルマンス展
場所 ストックホルム近代美術館
開催期間 2013年1月20日まで
URL www.modernamuseet.se/en/Stockholm/Exhibitions/2012/Wolfgang-Tillmans

鈴木布美子 (すずき ふみこ)
ジャーナリスト。80年代後半から映画批評、インタビューを数多く手掛ける。近年は主に現代アートや建築の分野で活動している。

Column

世界を旅するアート・インフォメーション

世界各地で開かれている美術展から、これぞ!というものを、ジャーナリストの鈴木布美子さんがチョイスして、毎回お届けします。
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2013.01.11(金)