「こちらまで身軽になった」

 私は不動産が好きで、家に対しては少なからぬ執着があって。ただ、その執着もル・コルビュジエが、彼の好きな地中海を望む場所に、自分たち夫婦が住むための小屋をつくったという話を聞いたとき、すとんと抜けたんです。禅でいう方丈ではないけれど、あれだけの建築家がやりたいことをやり尽くした末に、最終的にたどり着いたというその小屋を見たとき、こちらまで身軽になったというか……。だから今は自分がこの世につないでいるあれこれの鎖を、欲望も含めて一つずつ外している感じですね。

(家庭画報「きもの好き、映画好き」2‌0‌0‌8年1月)

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『一切なりゆき
~樹木希林のことば』

著・樹木希林
本体800円+税
文春新書

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樹木希林(きき きりん)

1943年東京都生まれ。女優活動当初の名義は悠木千帆、後に樹木希林と改名。文学座附属演劇研究所に入所後、テレビドラマ『七人の孫』で森繁久彌に才能を見出される。ドラマ「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」「ムー」などの演技で話題をさらう。出演映画はきわめて多数だが、代表作に『半落ち』『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』『歩いても 歩いても』『悪人』『わが母の記』『あん』『万引き家族』などがある。61歳で乳がんにかかり、70歳の時に全身がんであることを公表した。夫はロックミュージシャンの内田裕也、長女にエッセイストの内田也哉子、娘婿に俳優の本木雅弘がいる。2018年9月15日に逝去、享年75。