弁護士を一生の仕事に、と会社を辞める決断を

「電話での折衝も重要なデスクワークなんです」

 転機となったのは、入社10年目の夏。番組で共演した弁護士から、社会人に向けたロースクールの夜間コースの話を聞いたことだった。

「それまで忘れていたのですが、入社時に提出したキャリアプランに、『入社して10年経ったら、司法試験を受ける』と書いたことを思い出したんです。勉強はぜんぜんしなかったけど、法学部出身だったので(笑)」

 最初から弁護士を目指したわけではない。ロースクールへの入学を決めたのは、アナウンサーを続ける上での武器として自分の幅を広げるのに役立てば、との思いからだった。

「弁護士を一生の仕事にしたいと考えたのは、ロースクールに通いだして1年半が過ぎた頃。アナウンサーとしての10年後の自分は思い描けなかったんですが、弁護士なら10年後どころか、その先の働いている姿まで想像できた。会社に残って管理職になって、マンションを買ってという未来より、30代を勉強に費やして、40代からの人生を輝かしく生きていきたい。そう思ったとき、会社を辞めることを初めて考えました」

 司法試験を受けるチャンスは、たったの3回。合格率は決して高くはない。世間から羨まれるようなフジテレビ社員という安定した職業を捨てて挑戦したけれど、失敗すれば、40代目前にして無職になるという厳しい現実が待っている。

「フジテレビを退社した2007年末から司法試験に合格した10年9月までは、私の暗黒時代(笑)。会社を辞めて退路を断っての挑戦といえば聞こえはいいけど、冷静に見れば30代なのに生産性のない人間なんですよ。そう思うと本当につらかった。テレビや雑誌で活躍する昔の仲間と図書館の机にかじりつく自分を比較してはみじめな気持ちになり、ポジティブが取り柄の私が、なんてダメな人間なんだろう、とまで考えてしまう。『仕事は仕事と割り切って、黙ってお給料を貰っていればよかったじゃない』『人生は、かっこつけて無謀なことをしちゃいけないんだ』って、何度も思いました。1日15時間勉強しても未来への不安は拭えず、その恐怖心から眠れなくなることもしょっちゅうでした」

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2012.06.18(月)
text:Yuki Imatomi
photographs:Tamihito Yoshida

CREA 2012年7月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

女が会社を辞めるとき

CREA 2012年7月号

働き方は自分でデザインする 一生ものの仕事術!
女が会社を辞めるとき

特別定価 650円(税込)