自然の恵みと発酵の力で
元気をいただく

大きいほうのダイニングでは、余呉湖を眺めながら10人まで食事することができる。

 展望露天風呂に入って浴衣に着替えたら、もっとも楽しみにしていた夕食の時間だ。10人のグループだったので、厨房に近い大きなダイニングテーブルの部屋へ。さっそく手間を惜しまずていねいに作られた、心が穏やかになる料理が続々と運ばれて来た。

琵琶鱒の卵、山椒を使った枝豆、蒸し卵、ナスタチウム、わさび漬け、琵琶鱒と渋皮煮、おからなど、彩り豊かな八寸。
ご主人の匠の技、子持ち鮎。

 とくに驚いたのは子持ち鮎。2日間かけていくつもの工程を経て炊きあげたという鮎は、頭も骨も身と同じくらい柔らかいのに煮崩れしていない、芸術作品のような仕上がり。甘露煮のように甘いわけではなく、すっといただける。

左:料理とのペアリングは「七本鎗」の3種類の日本酒。
右:地の鰻の飯蒸し。下はもち米、上には餡がかけてある。
余呉湖を模した器に盛られたのはジビエと茸。熊と猪、鹿のテリーヌ、猪の生ハム、天然の舞茸、なめこ、香茸、紫風船茸、みょうがだ。

 すべてのお料理はご紹介しきれないけれど、掲載した写真のほかに、スッポン、鰻、琵琶鱒とフナの卵のこま鮓があった。どれも、ご主人が足で集めた地元の食材を使っている。

ていねいにお料理の説明をしてくださるご主人。
鯖のなれ鮓。トマトに飯を加えたソースと、岡山の吉田牧場のカチョカヴァッロを添えたソースで。中央にあるのはチーズ。

 そしていよいよ、なれ鮓が運ばれて来た。私は食べたことがなかったので、「いったいどんな味なのかしら」とおそるおそる箸をつけた(笑)。すると、「徳山鮓」常連の方が、「少しずつ食べたほうがいいよ」というアドバイスをくださった。

 と、テーブルの端から「うわーーーっ! なんだこれ!!」という叫び声が! その方は、初めてのなれ鮓を、一切れまるごと口に入れてしまったのだ。これから行く方はご注意あれ。とはいえ、本来のなれ鮓よりもかなり食べやすく仕上がっているのだとか。少しずつ口に入れると、日本酒によく合うこと!

右が「徳山鮓」開業のきっかけにもなった、フナのなれ鮓。2年ものだという。オレンジ色のものは卵。飯と山椒、はちみつを使ったソースで。左にあるのは、パンになれ鮓を挟んで軽く焼いたもの。
製造方法の特許を取得しているなれ鮓のアイスクリーム。

 最後に出されたのはなれ鮓のアイスクリーム! 居間に飾ってある2014年の特許証は、このアイスクリームの製造方法の特許だ。ほのかに香る発酵香と甘いクリームがしっくりと合っていた。

香茸の炊き込みご飯の土鍋をもってきてくださったのは、ご主人の長女の舞さん。

 長女の舞さんは、料理人のご主人とともに実家に戻り、「徳山鮓」の二代目となるべく厨房に立つ日々。常連の方いわく、舞さんが加わって料理の盛りつけが変わってきたという。

 フランスで修業中の息子さんも、いずれはここに帰ってくるとのこと。ますます楽しみだ。

2017.12.27(水)
文・撮影=たかせ藍沙