地元野菜や穀物への深い愛が伝わってくる

#02 Fresh hearts of palm: Brazil nut oil, farofa

 椰子の芽の料理。パスタ状にスライスされた椰子の芽は、淡い淡い甘みと微かな苦みを感じる、手応えの薄い食材ながら、ブラジルナッツのオイルとファローファ(キャッサバ粉)をかけて和えただけでどうだろう。ナッツの香ばしさとファローファのうま味のなのだろうか(それもさして強いものではない)。カラスミにも似た太いうま味を感じる皿になっている。素晴らしい!

#03 Pachikey scallops

 帆立とイエローチリ、アヒ・アマリージョのソースと燻製したアボカド。表面だけさっと火を入れた帆立の焦げ香と生のしっとりとしたいやらしい食感に、葷成功がほんのり漂うアボカドのコク、アヒ・アマリージョのうま味の三者が美しく共鳴する。緻密な計算が生きた見事な皿である。

#04 quinoa salad: Native potatoes, tamarillo, Andran herbs and pickled mushrooms

 キノアのサラダ。キノアは「どこがおいしいのかしらん? まあ健康にいいから食べているのね」と今まで思っていたが、いい意味で裏切られた。

 小さい粒々を噛み締めてみると、穀物的な素朴なうまさがある。そこに、芋類の実直な甘みが重なり、タマリロ(約2~8センチの果実)の、パッションフルーツ香とトマト風味、キウイのような甘酸味、微かなとピリッとくる辛味が見事にアクセントする。pickled mushroomsと書かれていたが、僕には見つけることができなかった。

#05 All Corn

 クリスピーコーン、ベビーコーン、ペルー原産コーンの盛り合わせ。クリームとカレーの風味である。クリスピーコーンを手でもってがぶりとかじりつく。

 ペルー原産コーンのむちっとした食感とジャガイモに似たほの甘さ、ベビーコーンのつたない甘い香りにシャキッとした食感、クリスピーコーンの痛快な食感が一気に弾けて笑みがこぼれる。それらをクリームのコクとカレーの香りが持ち上げる。

 それらが微妙な量でバランスが取れている点もいい。コーンだけで、これだけのまとまりを見せる料理も面白い。

#06 Escolar

 一口食べた瞬間に思った。「これは鯖の味噌煮だ」と。脂がほどよくのって、舌の上でしっとりとほぐれる味わいは、まさに鯖である。

 そしてソースは先のユッカ・ブラヴァであると思われるが、味噌煮的なソースのうま味がある、当然ながら御飯が少し欲しくなる。後ろに添えてあるのは、カブとルッコラにカイランと同じような味がする青菜の炒め。

 ちなみにEscolarは、深海魚でホワイトツナとも呼ばれ、日本でも静岡県沖に生息し、アブラソコムツと呼ばれる魚である。

#07 Chia & Kefir

 チアシードとヨーグルト、シリアルのデザート。ヨーグルトの酸味がいい、爽やかなデザートである。

 全体的に料理は軽く、味付けも淡く適妙で、なにより地元野菜や穀物への深い愛が伝わってくる。しかしガストンに比べると、肉もなく、量も少ない。

 だが15時に食べ終わって、21時までまったくお腹がすかないのは、チアシードのせいだろうか。それもまた計算なのか。

マッキー牧元(まっきー・まきもと)
1955年東京出身。立教大学卒。(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く。「味の手帖」 「銀座百点」「料理王国」「東京カレンダー」「食楽」他で連載のほか、料理開発なども行う。著書に『東京 食のお作法』(文藝春秋)、『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)、『ポテサラ酒場』(監修/辰巳出版)ほか。

Column

マッキー牧元の「いい旅には必ずうまいものあり」

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く「タベアルキスト」のマッキー牧元さんが、旅の中で出会った美味をご紹介。ガイドブックには載っていない口コミ情報が満載です。

2017.04.06(木)
文・撮影=マッキー牧元