特に好きなキャラクターは「ボラクチン」

――侵略や戦争という非情な現実を描きながらも、本作では登場人物たちを単純な「善人」「悪人」として二分してジャッジしていませんよね。

 それは企画の最初期から、プロデューサー陣やAbel監督とも固く共有していた方針でした。この作品は、誰かの行動を一方的に善悪でジャッジしたり、特定の誰かを貶めたりするための物語ではありません。モンゴル側にも、ペルシア側にも、それぞれが守るべき生活があり、譲れない誇りがあり、信じる文化があります。それぞれの立場から世界を見つめている人間たちの群像劇だからこそ、単純な悪役として描くようなことは一切したくありませんでした。

――ちなみに、山田監督が作中で特に思い入れのあるキャラクターを一人挙げるとしたら誰でしょうか?

 一番好きなキャラクターは、ボラクチンです! 史実においては、ボラクチンに関する記録は本当にわずかしか残されていません。そんな限られた歴史の隙間から、トマトスープ先生があれほどまでに魅力的で、強さと愛嬌を持った素晴らしいキャラクターを生み出されたことに、心から感動したんです。そうしたトマトスープ先生の圧倒的な創造力への尊敬と感謝を込めて、インタビューなどで聞かれた際にはいつも「ボラクチンが大好きです」とお答えしています。

――これまで数々の名作を世に送り出してきた山田監督ですが、アニメーションという表現に向き合う上で、ご自身の核として毎回必ず守り続けている哲学はありますか?

 「物語の中のキャラクターたちに対して、絶対に失礼のないように接する」ということです。 彼女たちや彼らを、単なる絵やフィクションの都合として扱うのではなく、現実に生きている一人の人間として、敬意を持って誠心誠意向き合う。彼らにとって不名誉にならないように、その心の奥底にある小さな思いや声なき声を、余すところなく丁寧に掬い取っていくこと。その姿勢は、作品を観てくださる視聴者の方々に対する誠実さとも直結していると信じています。「キャラクターを大切に扱う」ということ、それだけはどんな作品であっても絶対にブレずに大切にし続けています。

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山田尚子(やまだ・なおこ)

2009年TVアニメ「けいおん!」にて監督デビュー。『映画けいおん!』(2011年)にて長編映画初監督を務め、『映画 聲の形』(2016年)ではアニメ映画祭としては世界最大規模のアヌシー国際アニメーション映画祭長編コンペティション部門入選を果たした。その後TVアニメ「平家物語」(2021)、短編映画『Garden of Remembrance』(2024)を立て続けに発表。映画『きみの色』(2024)では第26回上海国際映画祭金爵賞アニメーション最優秀作品賞を受賞。TVアニメ「天幕のジャードゥーガル」では総監督を務める。

TVアニメ『天幕のジャードゥーガル』

少女と妃。
復讐の絆で結ばれた二人が、地上最強の帝国に嵐を起こす――。
母を亡くし、故郷からも遠く引き離された幼い少女・シタラは、
学者一家の心優しい奥方・ファーティマに拾われる。
「勉強して賢くなれば、どんなに困ったことが起きたって何をすれば一番いいのかわかるんだ」――
ファーティマの息子・ムハンマドの言葉に心を揺さぶられたシタラは、
"知"の可能性と大切さを知り、教養を深めていく。
いつの日にか、ムハンマドに追いつくことを夢見て……。
その頃、皇帝チンギス・カンによる地上最強の「モンゴル帝国」が日に日に勢力を拡大していた。
その歴史のうねりは、ついにシタラの住む街をも巻き込んでいく。
帝国の第四皇子トルイによってすべてを奪われ捕虜となったシタラは、
ただ一つ残った“知恵”を駆使して王族に取り入り、帝国を内側から崩壊させようと決意する。
奥方から受け継いだ"ファーティマ"を名乗って。
心に復讐の炎を宿しつつ、表向きは帝国に仕える身となったシタラはある日、第三皇子オゴタイの第六妃ドレゲネと運命的な出逢いを果たす。彼女もまた壮絶な過去を抱え、心の内に帝国への深い恨みを秘めていた。
シタラとドレゲネ。
出逢うはずのなかった二人が手を取り合うとき、運命が大きく動き始める。

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