放送が開始するや否や「素晴らしすぎて同時代を生きられていることに感謝」「これが日本アニメでとても誇らしい」など、国内外から絶賛の声が相次いだTVアニメ『天幕のジャードゥーガル』。トマトスープ氏による同名漫画を原作とする、13世紀のモンゴル帝国を舞台にすべてを奪われた少女が知恵を武器に復讐を誓う歴史大河ストーリーだ。

 本作を手がけるのは、『けいおん!』や『聲の形』『平家物語』などで知られる山田尚子総監督。彼女は、なぜ次なる舞台に13世紀のモンゴル帝国を選んだのか。アニメファンのみならず、全クリエイター必読の制作秘話に迫る。(全2回の1回目/続きを読む

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率直に言って、これはすごく難しいぞ…! と

――原作を初めて手に取られた際、どのような第一印象を抱かれましたか?

 率直に言ってしまうと、「これはすごく難しいぞ……!」という感覚でした(笑)。お恥ずかしい話ですが、私自身はもともと歴史にそこまで詳しいタイプではなかったんです。ですから、最初に読んでいる段階では「難しいな、これはどう理解していけばいいんだろう」という戸惑いのほうが強かったかもしれません。けれど、登場するキャラクターたちについて少しずつ調べ始めてみると、一人ひとりが本当に魅力的で。ひとつの出来事や人物を調べていくと、パズルのピースがはまるように勉強がどんどん捗っていくんです。知れば知るほど理解が深まり、自分の中の知識が増えていく感覚がものすごく心地よくて。知的好奇心が刺激されて、作品の奥深さに一気に引き込まれていきました。

――山田総監督といえば、これまで『けいおん!』や『聲の形』『リズと青い鳥』など、「現代の青春」をみずみずしく描かれてきた印象が強いです。一方で、前作『平家物語』に続き、今回は13世紀のモンゴル帝国という、現代から遠く離れた歴史の物語を手掛けられました。時代や舞台が大きく変わっても、山田総監督の中で「人を描く」という点において一貫している思いはあるのでしょうか。

 根本にあるのは、「自分には知らないことがたくさんあるから、もっと知りたい」という知識欲や好奇心に突き動かされている部分だと思います。そして、作品を描く上での視点で言えば、実は現代劇も歴史劇も私の中ではまったく変わっていません。時代や舞台、身にまとっている衣服や社会のルールは違っても、そこにいるのは同じ「人間」なんですよね。誰しもに喜怒哀楽があり、誰かを愛おしく思ったり、悲しんだり、怒ったりする。もちろん、当時の13世紀ならではの独特な倫理観や宗教観、価値観はたくさん存在します。ですが、人間の感情の動きや機微は、いつの時代であってもきっと共通しているはずです。だからこそ私は、その「心の部分」を何よりも大切にしたいと考えています。

――歴史の年表そのものへの興味というよりは、その時代の中で生きていた人たちの目線や言動に惹かれる、ということでしょうか。

 まさにその通りだと思います。「1100何年にこんな歴史的事件があった」という史実のデータそのものに興味があるというよりは、その渦中にいた人たちが何を思い、何を見て、どんな言葉を交わしていたのかという、生身の人間の姿に強い興味があります。ですから、『平家物語』のときも今回もそうですが、最初から歴史に精通していたから作ったわけではなくて、制作の過程で調べていくうちにどんどん興味が育っていきました。少しずつ知っていくプロセスが本当に楽しいんです。自分の持っている狭い経験や現代的な価値観だけでは測れないものに次々と出会える感覚が、とても刺激的でした。もともと歴史に詳しくなかった私のような人間が関わるからこそ、同じように歴史に馴染みがない視聴者の方々にもわかりやすく届けることができますし、「わからないなりに同じ目線に立って、一緒に学んでいける作品」にできるのではないかと思っています。

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