日常のルーティンと妄想が自信を生む

――安齊さん自身は、本番前にどうやって「強いプロレスラー」に切り替えているんですか?

安齊 自分の中で「スイッチを入れる儀式(ルーティン)」を徹底しています。僕は試合の日、サポーターや靴下は必ず右足から履くって決めているんです。一回間違えて左から履いちゃうと気持ち悪くて、全部脱いで右から履き直すくらい(笑)。

 入場ゲートの前では肩を回して深呼吸して、口を大きく開けて、ロープにもたれて目を瞑って集中する。どの会場でも必ず同じ動作をします。そしてゲートをくぐった瞬間、「今、世界で一番俺がかっこいい」「会場にいる全員が俺を好きだ」って徹底的に自分に暗示をかけるんです。

――自分を追い込むくらいの暗示ですね!

安齊 プレゼンでもなんでもいいので、自分だけのスイッチを決めておくと、いつも通りの「家で練習した自分」を出せるようになると思います。あとは、圧倒的な準備と「妄想」ですね。

――妄想、ですか?

安齊 他の選手の試合や会見を見ながら、「自分だったらどう喋るか」「この技をかけられたらどう返すか」を日常的にひたすら妄想してストックしているんです。そうすると、いざ本番でアクシデントが起きたり、質疑応答で想定外の質問が来たりしても、自分の中の引き出しからとっさに言葉や動きが出てくるんですよね。時間があるうちに徹底して準備しておくことが、結局一番の自信に繋がるんだと思います。

「人間をやめろ」といわれた過酷な練習生時代

――そこまでストイックに準備できるのはすごいです。

安齊 練習生時代、先輩から「人間のままデビューできると思うな。人間をやめてプロレスラーという超人になれ」って言われたんです。それがすごく腑に落ちて。毎日スクワット500回とか、思い出すだけでも地獄のような練習だったんですけど、そこで一度「人間を捨てた」感覚がありますね。

 練習が終わった瞬間から「あと20時間後には次の練習が始まる」ってタイマーが回っているような生活で。何回泣いて、何回戻して、何回逃げ出そうと思ったかわからないです(笑)。

――そんな壮絶な日々を乗り越えてこられたんですね……。試合で負けた時の悔しさや挫折はどう乗り越えているんですか?

安齊 失敗したとか、後悔するってことがあまりなくて。負けたらもちろんめちゃくちゃ悔しいですけど、その時の100%は出し切っているんです。100%出し切って届かなかったなら「相手がすごかった」と認めるしかないし、自分の人生のピークは今じゃないので。未来も含めたら今が一番下で、これから強くなるしかない。そう思えば、悔しさは「明日もっと頑張ろう」というモチベーションに変わります。

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