甘さの中にストーリーが刻まれた天草のスイーツ

伝説のスイーツを求めて﨑津地区へ。教会に見守られた小さな漁村は、長崎の教会群とともに、世界遺産候補地となっている。

 天草下島の中南部にある﨑津集落は、ポルトガル人宣教師、ルイス・デ・アルメイダが16世紀に布教活動を行ない、長い間、天草におけるキリスト教布教地のひとつだった場所。

 そんな歴史がありながら、一帯は野良猫が堂々と昼寝するのどかな漁村で、歩けば歩くほど、ノスタルジックな風景に旅情を誘われる。﨑津の一角でおばあちゃんたちが売っているのが、18世紀から伝わる「杉ようかん」だ。

左:杉ようかんは「南風屋(はいや)」で販売。保存料を使っていないので、賞味期限はその日かぎり。お土産にはできないから、潔くその場で食べてしまおう!
右:野良猫が闊歩する集落の向こうに見えるのは﨑津教会。外観はゴシック、内観は畳敷きという天草らしい教会だ。

 1790年、琉球王の使節団が徳川幕府の祝賀会に向かう途中で難破し、﨑津に漂着。住民たちに救助されたお礼にと伝授したのが、杉ようかんのレシピなのだそう。実物はネーミングとは違って、餡入りの餅菓子。

 表面のショッキングピンクに一瞬たじろいでしまうが、これは添加物ではなく、ドラゴンフルーツの果汁で色づけしたもの。そんな南国テイストもありながら、防腐効果と香り付けを兼ねて杉の葉を添えているところは和菓子らしくて、ちょっとオリエンタルな雰囲気もある。

南風屋(はいや)
所在地 天草市河浦町﨑津454
電話番号 0969-79-0858
営業時間 7:30~15:00(売り切れ次第終了)
定休日 不定休(2016年1月は休業)

カステラの原型、パオンデローを天草産の卵黄でアレンジ。食感はふわふわでまろやか。

 約220年前の琉球菓子をルーツにした和菓子もあれば、ポルトガルのスイーツがあるのも、16世紀に南蛮文化の影響を受けた天草ならでは。

 ポルトガルの国民的お菓子、エッグタルトやパオンデローをアレンジし、天草産の食材で作っているのは、パティスリーの「南蛮菓子工房えすぽると」。オーナーでパティシエの明瀬晴彦さん自らがポルトガルを歩いて研究した南蛮菓子は、おいしいだけではなくストーリー性もある。

 現地で郷土料理を食べるのも楽しいけれど、食材を持ち帰って料理するのは、もっと楽しい。料理好きの人が天草を旅するなら、アドバイスを一言。スーツケースのスペースには、たっぷりと余裕を持って、出かけることをおすすめする。

南蛮菓子工房えすぽると
所在地 天草市佐伊津町2140-8
電話番号 0969-23-6827
営業時間 9:00~18:30
定休日 火曜
URL http://amaame.com/

芹澤和美 (せりざわ かずみ)
アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト http://www.serizawa.cn

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2015.12.01(火)
文・撮影=芹澤和美