【KEY WORD:ギリシャ危機】

 ギリシャがEU(欧州連合)を離脱するかもしれない、という問題でヨーロッパは大騒ぎになっています。

 きっかけになったのは2009年。それまでギリシャ政府は、財政赤字はGDPの3パーセント台しかないと言っていたのですが、「実は12パーセント以上もありました」と、言ってみれば粉飾決算であったことを発表。これで一気に国際社会での信頼を失い、国債などで資金調達することが難しくなってしまいました。

 ギリシャがひっくり返ってしまったらEU全体が危ない、ということになり、EUとIMF(国際通貨基金)、それにECB(欧州中央銀行)という3つの組織が相談し、ギリシャに巨額の融資をすることにしたんですね。そして、そのかわりにギリシャは緊縮財政を徹底的にやって赤字を減らせと通告したわけです。

 以来5年あまり。ギリシャは緊縮財政のおかげで国民の生活はかなりひどいことになり、「トロイカ」と呼ばれるEU・IMF・ECBへの怒りが日増しに高まっていきます。そして緊縮財政をやめると宣言した左派連合「シリザ」が政権をにぎり、リーダーのチプラスさんが首相に就きました。チプラス政権はトロイカと交渉しようとしたのですが、トロイカ側は譲歩を拒否。そこでチプラス政権は「緊縮財政にイエスかノーか?」を国民投票にかけて、そして国民は「ノー」を選択……という流れです。

 このギリシャ問題をどう見るかは、国や人によって大きく異なります。ドイツでは「われわれが厳しい財政で我慢しながらここまで経済成長させてきたのに、遊んでるギリシャ人のためにお金を出すなんて」と怒ってる人が多いように見えます。寓話「アリとキリギリス」のアリがドイツ人で、キリギリスがギリシャ人ということですね。

 たしかにギリシャは公務員が異常に多く、年金も早い時期からたっぷりもらえる制度になっているなど、かなり野放図な社会だったことは間違いないでしょう。「粉飾決算」の問題も含めて、一義的な責任はギリシャにあるのは間違いありません。

貸した金はギリシャの国外へ

 しかしトロイカ側にも問題があります。ギリシャが危機に陥ったとき、トロイカは借金を減免してあげる方法をとらず、かわりにお金を追加で貸すことにしました。もし借金減免してしまうと、スペインやポルトガルなどEUの他の危ない国でも同じような減免が行われるのではないかと予想されることになり、するとこれらの国から金融機関が急いでお金を引き上げてしまう。すると危機が連鎖的に広がってEU全体が危なくなる……と考えたからです。そこで追加でお金を貸す方法にしました。これなら危機は連鎖しません。

 しかし結果がどうなったかというと、追加で貸したお金は借金返済に大部分が使われてしまって、助かったのはギリシャ国外の金融機関。ギリシャ政府にはお金はほとんど回らず、緊縮財政を強いられて経済成長をさせる方法もなく、この5年のあいだにギリシャのGDPは25パーセントも減ってしまったのです。

 いっぽうでドイツは、東欧からの安価な労働力を使えることやユーロが共通通貨になっていることをうまく活用し、競争力を高め、政治的にも経済的にもEUの盟主となりつつあります。フランスの思想家エマニュエル・トッドは「ドイツ帝国が復活してきている」と警鐘をならしています。

 この状況にギリシャ人が憤然とするのも理解できますよね。強大化するドイツと、EUから転落しつつあるギリシャ。ここから先にどのような展開となり、日本をはじめとする世界の他の地域にどう影響を与えることになるのかは、ひきつづき注意深く見ていかなければなりません。

佐々木俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。毎日新聞社、アスキーを経て、フリージャーナリストとして活躍。公式サイトでメールマガジン配信中。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『家めしこそ、最高のごちそうである。』(マガジンハウス)、『自分でつくるセーフティネット』(大和書房)など。
公式サイト http://www.pressa.jp/

Column

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2015.07.17(金)
文=佐々木俊尚