世界を旅する女性トラベルライターが、これまでデジカメのメモリーの奥に眠らせたままだった小ネタをお蔵出しするのがこのコラム。敏腕の4人が、週替わりで登板します。

 第78回は、タイにある虎だらけの寺院を訪れた芹澤和美さんがレポートをお届け!

「襲われても責任を追及しません」という同意書にサイン

 「虎と存分に戯れてきてください」。そんな見送りの言葉とともに出発した、タイ取材。動物と人間の共生をテーマにした取材の一環で訪れたのは、中部カンチャナブリーにある仏教寺院、「ワット・パー・ルアンター・マハーブア・ヤーンナサンパンノー」だ。別名「タイガー・テンプル」という呼び名のとおり、ここでは110頭の虎と僧侶たちが、共同生活を送っている。

虎と僧侶が一緒に暮らすタイガー・テンプル。タイの仏教では、虎は神聖な生き物とされているのだそう。

 サファリパークでもない、動物園でもない、風変わりなこのお寺は、入場料を払えば、誰でも境内に入って虎に触れたり、戯れたりすることができるという。猫2匹と暮らし、ネコ科の扱いにも慣れている私も、さすがにちょっとドキドキしながら現地へと向かった。

一般開放は正午からだが、追加入場料を支払えば、読経の流れる中で子虎と触れ合う「モーニングプログラム」にも参加できる。

 バンコクから約3時間半。到着したタイガー・テンプルの入り口にあったのは、寺院らしからぬ巨大な虎のオブジェだった。ここはサファリパークか、動物園か。不思議な気分で入場料を払い、「虎に襲われても責任を追及しません」という内容の同意書にサインして、敷地内へ。

田舎道に突如現れる、親子虎の巨大オブジェ。これがタイガー・テンプル入り口の目印。

 まず向かったのは、本堂。黄色い袈裟を着たお坊さんたちが、朝の読経をあげている後ろで、何十頭もの子虎がゴロゴロと寝そべったり、じゃれあったりしている。その傍らでは、参拝者(というよりも観光客)が、子虎を抱っこしたり、ミルクをあげたり。タイガー・テンプルの入場料は600バーツ(約2,200円)だが、5,000バーツ(約18,400円)を払うと、午前中に行われるこの「モーニングプログラム」に参加できるシステムだ。コーラ1本12バーツ(約44円)のこの国では、かなりのお値段。

人が近づいても、子虎たちは動じる様子もない。

 私もおっかなびっくり虎の子を抱っこする。生後11カ月の雄の虎だという。あどけない顔で甘えてくる仕草は、我が家の猫と一緒。幼い虎なら仲良くなれるのかなあと思った矢先、次は「大きな虎と水遊びしましょう!」というアナウンスが。観光客は本堂を後にし、次なる「アトラクション会場」へと向かった。

ミルクをねだったり、子虎同士でじゃれあう姿は、猫と一緒。

2015.03.24(火)
文・撮影=芹澤和美