“死の温度”に触れて知ったのは…
――河野さんは、文字通り、死の直前まで歌を詠み続けます。寝ながら枕元にあるティッシュペーパーの箱や薬袋に歌を書きつけ、鉛筆を握る力がなくなると、前触れもなく歌の言葉を呟き、ご家族がそれを書き留めました。今際の際に詠んだ絶唱は<手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が>。
数多くの映像作品で主演を務めてきた本木さんですが、アカデミー賞を総なめに映画「おくりびと」が生まれたのは、27歳の時のインドの旅で死生観に大きな影響を受けた本木さんが青木新門さんの『納棺夫日記』を読まれたことがきっかけでした。ご遺体を清め、仏着を着せて棺に納める納棺師という職業を初めて知った人も多かったと思います。そのほかにも、西川美和監督の「永い言い訳」など、死の影が色濃い作品に多く主演されていますね。
「おくりびと」の撮影に入る前に、納棺師の方に所作を教えていただきながら、実際に納棺のお手伝いをさせていただいたことがあったんです。寒い冬の頃で、年配の女性のご遺体でした。室内は暖房が効いているのに、触れたご遺体が、外気と同じ冷たさだったことをよく覚えています。お家の方が優しく自然にご遺体に話しかけているのが印象的でした。インドも含めたその頃の経験から、生も死も日常、つまり生と死は別々のものではなく一つに繋がっている、そんな安心感を得た気がしているんです。
<わたくしは死んではいけないわたくしが死ぬときあなたがほんたうに死ぬ>
これは、永田先生が河野さん亡き後に詠んだ一首です。
一生の中で、夫婦でなくても、親子であったり、友人であったり、自分の大切な人を亡くすという体験を、遅かれ早かれ誰もがします。その喪失感を前に永田さんは語ります、“死者は生者の記憶の中でしか生きられない、自分が長生きすることが死者を生かしておく唯一の方法だと信じている”と。その思いに美しさと尊さを感じます。
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*朗読劇「たとへば君 四十年の恋歌」2026年10月28日(水)~11月4日(水) 会場:新国立劇場 小劇場(お問合せ:アーティストジャパン03-6820-3500 平日11:00~18:00)
本木雅弘(もとき・まさひろ)
1965年12月21日生まれ、埼玉県出身。1982年「シブがき隊」のメンバーとしてデビュー。解散後、映画『シコふんじゃった。』やNHK大河ドラマ『徳川慶喜』などで主演を務める。2008年公開の主演映画『おくりびと』で米アカデミー賞外国語映画賞をはじめ国内外の賞を多数受賞。今年、還暦記念フォトブック『awai 刹那と永遠のまにまに』を発売。
朗読劇「たとへば君 四十年の恋歌」
2026年10月28日(水)~11月4日(水)
会場:新国立劇場 小劇場
出演:本木雅弘 森口瑤子
原作:河野裕子・永田和宏著『たとへば君 四十年の恋歌』(文春文庫)
上演台本・演出:星田良子
音楽:中村匡宏
演奏:西尾周祐(ピアノ)、中西哲人(チェロ)
企画協力:文藝春秋
企画・製作 アーティストジャパン
https://artistjapan.co.jp/ajrt_tatohebakimi2026/
